マギ長編
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ズダァァァン!!
アリババ「なっ…、なんだ…!?」
大きな音を立て、馬車は荷物を撒き散らし倒れた。
『あんたら、無事か!?』
「え…は、はい!」
アラジン「僕も大丈夫だよ」
次第に砂が沈み、穴が出来き上がる。そしてその中心、事の元凶が姿を現した。
「何アレーっ!!?」
アリババ「砂漠ヒヤシンスだ…!」
【砂漠ヒヤシンス】砂漠の肉食植物だ。
「穴に落ちるな、食われるぞ!」
「馬車を捨てて逃げろーっ!!」
他の運転手達は協力し合い、馬車を起こしたり、ラクダを落ち着かせたりと行動を始めた。
「おい、酒を運べーっ!」
アリババ「ハイッ!もちろん!!」
『おい、嬢ちゃん!ここは危なねーから向こうに――』
キリフォードが女の子の手を握ろうと手を伸ばした刹那
アリババ「あっ!?」『ッ!!』
ブーデルが腰を上げ、それにぶつかった女の子が酒樽と共にヒヤシンスがいる穴へと落ちていった。
するとブーデル、アリババの二人が手を伸ばした。
それぞれの手が目的の物に届きかけた時、
「ワシの酒ーーっ!!!」
アリババの手は、ブーデルが酒樽を拾い上げた事によって阻止され、女の子はヒヤシンスの口の中へと落ちていった。
その光景を目の当たりにした面々は絶望の表情を浮かべた。
「ああ良かった、無事だった…。――おい、早く車を出せ!」
――おい、誰か助けろよ!!
「チャンスだ!砂漠ヒヤシンスは“エサ”を食っとる間は動かん!」
――死んじまうよ…
「あんな小さい“エサ”ではすぐに食い終わっちまうだろうがな」
――誰か
「ワシの酒を逃がそう!!早く!!」
――誰か…
母親である女性は切実な思いで娘の消えた先を見詰め、他の者達は女性が早まらないよう必死に押さえいる。
アラジンは慌てる人々の中から、鋭く冷たい視線をブーデルに向けていた。
「あーー…泣くな女よ。あの子供の“代金”なら…、ワシがいくらでも“払ってやるから”」
――誰かじゃねぇよ!!
アリババはブーデルに飛び掛かる勢いで走り出した。
あと数歩走れば、振り上げた拳がぶつかるという所。しかし彼よりも早く、キリフォードがブーデルの服を掴み上げた。
「な、なんだ貴様は!? お、おい用心棒なら早くこの場から酒を――」
『――砂漠ヒヤシンスは“エサ”を食ってる間は動かないんだったか…?』
「そ、そうだ!だから早くここから…」
『お前の言う“エサ”になった女の子の命は、金で払えるもんなのか?』
「そ、そうだ。この世は金で全てが解決でき――」
『なら、お前の命も金で解決出来るんだな?』
そう言うと、キリフォードはゆっくりとブーデルの体を穴の上まで持っていく。
キリフォードが手を放すと、ブーデルがヒヤシンスの口に落ちてしまう状態だ。
「よ、よせ!やめろ!やめてくれぇ!!!」
アリババ「やめ、やめろキリっ!」
ブーデルとアリババが必死にキリフォードに説得を試みた。
ニヒルな笑みを浮かべ、キリフォードは言葉を紡ぐ。
『“油虫も殺せねぇ”って言ったけど…、あれ嘘だから』
瞬間、ブーデルは宙を舞った。
「ぐわぁっ!」
キリフォードはブーデルを後方に投げ飛ばすと、酒樽をアリババに投げつけ、「アリババ、行けよ」と言った。
もはやヤケクソとなったアリババだが、彼は穴の中へと降りて行った。
アリババ「今助けるぞ!!」
アリババの行動に喚声が上がる。
降りて行く間、アリババはぶつぶつと後悔の念を口にしていたが、「でも、今はそんな場合じゃねぇ!」と迷いを断ち切る。
「こ、このっ!しぃ…死ねっ!死ねっ!無礼者っ!」
ガタガタと肩を震わせて罵声を飛ばすブーデルだが、キリフォードが真っ赤な瞳を向けると、悲鳴を上げて縮こまった。
後ろの方でアラジンが懸命に笛を吹いているようだが、「出ない、出ない…」と呟いていた。
アリババ「酒は…こう使うんだよっ…!」
アリババはヒヤシンスの口に向かって酒を投げつけた。
すると、ヒヤシンスは力を失っていく。
アリババ「砂漠・ユリ科の肉食植物は酒に酔うんだ!酔い潰れたら地中に帰ってくれる。――今のうちに逃げるんだ!!」
アリババは見事女の子を救出し、母親の元へと帰した。
一見解決したかに思えたが、ヒヤシンスは息を潜めていただけで、まだ酔い潰れてはいなかった。
「アリババ!!! まだだ!!」
アリババ「!!」
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