マギ長編

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パッカ パッカ…


パッカ パッカ パッカ…



不規則なリズムを刻み、太陽が照り付ける砂漠を数台の馬車が通る。



アラジン「わー、ウーゴくん。街がだんだん小さくなってゆくねぇ!」


のどかなその風景に合う、楽しそうな声が砂漠に溶け込む。



「ぼうやも隣町まで行くの?」


アラジン「そうさ!」


今この馬車には冒頭の声の主、青髪の少年アラジンと仲睦まじい母子、



「まぁ、一人で偉いのねぇ」


アラジン「一人じゃないよ?ホラ!」

そう言ってアラジンが金属の笛を見せると



「これ…動くな子供よ…。ホコリが散る」


モシャモシャと林檎をかじりつつ、アラジンを軽蔑するような視線で見詰める大豪農ブーデル。


「狭いし、子供はうるさいし…ど〜なっとるんだね〜っ運転手よ…」


アリババ「すみません、ダンナ様。うちは安いですが、仕事は確かですよ」

ヘラリと愛想よくブーデルの機嫌を取る運転手の少年、アリババ。


『スー…スー…』
そして出発当初からずっと眠っている黒髪の青年の計6人が乗っていた。




アリババ「ダンナ様の大事なブドウ酒は、きっちり運ばして頂きますんで!はい!」


「フン、当然だ!貴様には一生手の届かん高い酒だ、丁重に扱えよ…」


ヘラヘラと始終笑顔を絶やさないアリババの台詞に、ブーデルはとことん威張り散らす。


するとアラジンが林檎に手を伸ばした事によって、ブーデルは見苦しくも声を張り上げる。


その声を聞き、黒髪の青年が身動ぎし、ゆるゆると瞼を上げた。



アリババ「だめだめ、それはダンナ様の林檎だよ!」


アラジン「僕にもおくれよ」

物欲しげにアリババに尋ねたが、アリババは“金が無いから食べられない”と言い捨てた。


シュン…とアラジンは元居た場所に戻り、体を縮め込ませた。


欠伸を噛み殺し、その一部始終を見ていた青年は運転手に視線を寄越した。




『……林檎ぐらいやったらどうだ?まだ一杯あるんだしよ』


アリババ「ったく、やっと起きたのかよ。それと林檎ぐらいじゃねー、ちゃんとした商品なんだ。金を払って貰わなきゃ困る!」


青年はちらりと落ち込むアラジンを見ると、懐から巾着を取り出した。





『――ほらよ』


アリババ「っ!?」


キィィンという音と共に、それはアリババの左手に収まる。
開いて見ると、林檎一つ分の代金だった。


『それでそいつに林檎売ってやれるんだろ?』

ニヤリと口角を上げ、青年はアラジンを見遣る。



****



アラジン「ありがとう、お兄さん!この恩は忘れないよ!」

シャリシャリと青年の横で林檎をかじるアラジンに青年は笑って見せる。



『構わねーさ、林檎の一つや二つ。それよかたーんと食えよ?』


アラジン「うん!ありがとうお兄さん。お兄さんは優しいねぇ」


『そこの運転手サンは目つき悪いって言うぜ?』

ニヤニヤとアリババを見ると、彼は不貞腐れたようにこちらを振り向いた。

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