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□高尾家の奇異
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*高尾家の設定を捏造しております。
*某掲示板に掲載されていた内容を拝借しております。
*ほんのりBLっぽい描写あり。
始まりは妹ちゃんの言葉だった。
「にぃちゃん、そのおにーちゃんダレ?」
「え?」
妹ちゃんはオレの後ろを見詰めて、不思議そうに言った。
妹ちゃんは当時3歳、オレは5歳。
よく小さい子供は霊感があるって聴くけど、オレにはまったく無く、小さい子供がよく言う“視えない友達”ってヤツだと両親は片付けていた。
けど、小学5年生に上がった辺りで、不思議な出来事があった。
ちょうどその頃から鷹の目の片鱗が現れ始め、オレは人より視野が広くなった。
と言ってもまだバスケコート全体が見える程じゃなくて、なんとなく誰がその辺に居るか、とかそれが解る程度。
そんな話をどこかで聞いたらしい1コ上の、世に言う悪ガキ達が面白半分で、オレの背後から石を投げてきた。
その時オレは下校中で、もちろん妹ちゃんも一緒だった。
オレは危険に気付いたものの、防ぐ術を知らない子供で、咄嗟に妹ちゃんの頭を抱き抱えるしかなかった。
けど、いつまで経っても痛みがこない。ただ、自分達の周りにそれらが落下する音だけが聴こえた。
突然、彼らの呻き声が聴こえた。
驚いて目を開けると、悪ガキ達が苦しそうに頭を抱えていた。中には嘔吐しているヤツもいる。
怖くなり、オレは妹ちゃんを連れて急いで家に帰った。
するとその道中、妹ちゃんは嬉しそうに言った。
「お兄ちゃんの後ろに居る男の人が、私たちを護ってくれた!」
「男の人!?」
後ろを見ても、誰も居ない。
家に帰ると、母にその日の事をすべて話した。
話を聞いた母は、妹ちゃんに尋ねた。
「その男の人は、今も居るの?」
「うん、居るよ」
「どんな人か説明出来る?」
「えっとねー、キレイな金色の髪の毛してる。それで、白と水色の着物着てるの」
「怖い人?」
「ううん。優しそうな人。いっつもお兄ちゃんの後ろに居るの」
始終ニコニコしている妹ちゃんに、悪いヤツではないのだと、子供のオレは変に安心していた。
しかし、悪ガキの件について心配した両親は、オレを地元で有名な神主の所へ連れていった。
連れて来られたオレを見るなり、神主は「ありゃ」と驚いたとばかりの声を上げた。
「息子さん、凄いのが憑いとりますな。いやいや、正直私もこのような上等なモンに好かれとる方は初めてですよ」
神主は子供でも解るよう、言葉を選んで話してくれた。
オレに憑いてるのは、一端の神様で、どうやらオレはその神様に好かれているらしい。
比較的温厚な神様らしく、普段は自身の社に居たり、オレの周りを浮遊しているだけ。
しかし、けして危害を加えない訳ではない。
現に悪ガキ達が被害に遭っている。その事を伝えると、神主は苦笑いを浮かべて言った。
「そりゃそうだよ。君は神様にたくさんの愛情を注がれているんだ。しかもその神様は、すでに君を伴侶としてしまっている。自分のお嫁さんが酷い目に遭ったんだ、お怒りになって当然だ」
だけど、
更に神主は続けた。
「君に良くしてくれる人には、けして悪さをしないよ。むしろ神様の恩恵を分けてくれるんだ。だから自然と、君の周りには善い人が集まるだろう」
また何か困った事があったらここにおいで。
神主がそう締めくくり、オレ達は神社を後にした。
その日の晩、両親はオレに、オレが産まれる前と、その後の話をしてくれた。
オレが母のお腹の中に居た時、父と母はまだ大学生だった。
しかし、愛しい人の子を授かったのだからと、両親は出産を決意した。だが、まだまだ互いに若く、多くの不安が押し寄せた。
まず父は大学を辞め、今後の生活費を稼ぐ為に就職した。
そして母の両親に頭を下げ、母を必ず幸せにする、苦労はさせないと申し出た。
なかなか首を縦に振ってくれない祖父だったが、オレが産まれると、すんなり許してくれたらしい。同時に、その頃から父の仕事の調子が良くなり、僅か半年で出世した。
それから1年程経った頃、今度は妹ちゃんを身籠った。
当時オレは妹が出来ると大喜びしていたらしい。毎日毎日大きくなっていくお腹を触っていたそうだ。
そんな出産予定日を1ヶ月後に控えていたある日、突如陣痛が襲った。
お昼頃の事で、父は当然仕事で居ない。
家には苦しむ母と幼いオレしか居なかった。
苦しむ母を助けたい思いでオレは電話に手を伸ばしたが、何せ背丈が届かない上に、119番を打つ事さえ知らない。
苦しむ母の姿に、オレは到頭泣き出した。
このままでは赤ちゃんが、母が危ないと子供ながらに理解し、声が出る限りに泣き叫んだ。
すると玄関が開く音がした。続いて数人が慌ただしく部屋に入ってきた。
「大丈夫ですか!今から病院に運びますから!頑張ってくださいね!」
手際よく母を運び出した消防士達に連れられ、オレも一緒に救急車へ乗り込んだ。
「そう言えばお兄さんはどうしたんだい?」
お兄さんなんてウチには居ない、と答えると、消防士の人は驚いたように続けた。
「若い男性の方が、この事を報せてくれたんだけど……」
家には自分と母しか居なかったし、近所もこの事には気付いていないはずだった。
妹ちゃんの出産に関わる不思議な話はこれで終わりではない。それは出産の際にも起こった。
母が分娩室に入ってから1時間が過ぎた頃、父がやって来た。
父は泣きじゃくるオレを抱き上げ、ベンチに座り込んだ。父が到着して間も無くして、看護婦が出てきた。
父に深刻そうな表情で何やら話し、父も強張った表情を更に蒼褪めていた。
何でも産道に不具合があり、中々赤ちゃんが降りて来ないとか……
力無くベンチに座り込んだ父は、ひたすら神様、神様…と呟いていた。
幼いオレは、それが母のためになると感じ、同じように神に願った。
1時間後、再び看護婦が出てきた。
そのあまりの早さに、父は最悪の事態を想像した。
「お、おめでとうございます……!元気な女の子ですよ!」
弾かれたように中に入って見ると、可愛い女の赤ちゃんが母の腕に抱かれていた。
助産師は皆、正直驚いた。信じられない…と言っていたらしい。
「さっきまで凄く痛かったんだけど、ふっと突然痛みが和らいで、楽に産めたのよ」
当時の事を改めて振り返った両親は、
「あれは、もしかしたら和成に憑いている神様が恩恵をもたらしてくれたのかも知れないな」
「和成が私と妹を助けてくれたのかもね」
と笑っていた。
不完全燃焼のようなモヤモヤしたものを抱えたまま、オレは眠りに就いた。
ハッキリとは覚えていないが、夢を見た気がする。
雲の上のようにフワフワとした白く広い広い場所。
そこには自分と、金髪…と言うにはもう少し茶髪に近い髪をした男の人が立っていた。
男の人は困ったように笑い、棒立ちするオレの方へ近付いてくる。
怖い感じはまったく無く、オレは徐々に見えてくる男の人の姿を見詰めた。
愛しい人を見るような、甘く優しい表情をしている。
観察している内に、フワリと抱き締められた。
オレの幼く小さな体を包み込むように抱き締め、
『先日は咄嗟の事でびっくりさせてしまって……ごめん』
とオレの耳元で、囁いた。
先日……と言うのは、悪ガキの件だろう。
口が縫い付けられたように開かない。だからオレは首を横に振った。
男の人は柔らかく笑い、温かい何かをオレの額に触れさせた。唯一動かせる視線を上に向けると、男の人の喉元が見えた。
ああ、おでこにキスされたんだな、と解ると同時に、眠くなる感覚を覚えた。
意識が途切れる瞬間、男の人が何かを呟いた。
それは名前のようで、直感的に彼の名前だと解った。
――――彼の名前は…………