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□鳴海さん家の子供達2
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ピカッ





ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ…………






『…………荒れてきたな』

カーテンを開けて覗くと、遠くの空で雷が鳴り始めていた。





ピカッ

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ…………


光ってから音がするまでの周期が短くなっている。
雷はこちらに近付いているようだ。


『チビちゃん達が寝てて良かったぜ』

スヤスヤと心地良さそうに眠る子供達に小さく笑みを浮かべ、カーテンを閉め直した。




**********




ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ…………


何となく、目が覚める。
時刻を確認すると午前3時を過ぎた頃。

一度就寝したら、起床時間まで目が覚める事のない鳴海にとって珍しい事だった。



ピカッ……


一瞬、カーテンの外が目映く光る。
ずいぶんと足の遅い雷だな、と鳴海は思う。



(明日はどこもシフト入ってねーし……、ちょっと夜更かしでもすっかな)



薄暗い廊下を進み、キッチンへ続く扉を開ける。
雷が一瞬屋内を照らし、何とも言い難い雰囲気を醸し出している。

鳴海は冷蔵庫から麦茶を取り出し、グラスに注ぎ入れる。
渇いていた喉にそれはとても心地好く、体中に染み渡るようだった。


使ったグラスを洗っていると、雨音に混じってある"音"が聞こえてきた。


『……?』

いや、"音"と言うより"声"だろうか。
それは子供達が眠る部屋から聞こえる。

近付くにつれ、それはとある想定に行き着き、扉を開けた時には確実のものとなった。



部屋の両サイドに設置した2段ベッド。
そしてその間に設置した、大人2人が余裕で寝れるダブルベッド。

それぞれに眠るのは


 涼太           大輝     
――――      大  ――――    
 征テ   敦 良 我   真和
 十ツ           太成
 郎ヤ           郎      



になっており、今、薄暗い部屋の真ん中に設置されたダブルベッドの中央が、不自然な膨らみを作っている。

耳をすませば、微かにすすり泣く声がする。




『……良クン?』

鳴海は他の子を起こさないよう、声を落として問い掛けた。
それでもちゃんと届いたようで、体を起こし、良はこちらに顔を向けた。


「きょ……しゅけ、さんっ」

表情は窺う事が出来なかったが、明らかな涙声だった。


『……良クン、どうしたんだ?……怖い夢でも見たか?』

ダブルベッドの傍らに立ち、声を落としたまま尋ねる。


「ちがっ……うんで、す……っ」

この距離で、ようやく良の表情を窺う事が出来た。
その大きな双眸から、ポロポロと大粒の雫を溢している。

再び、カーテンの向こうが光る。と同時に、地鳴りのような音が続く。



「っひゃう……!!」

すると、良が両耳を塞ぎ、体を丸める。
小さな体は、ガタガタと震えている。


『…雷が怖いのか?』

「っ……ス、スイマ…セン……」

何に対しての謝罪だろうか。

鳴海はそう思い、微かな笑みを浮かべる。




『良クン、そこから出てこられるか?』


「……っ、」

僅かに身動いでみせるが、良は首を横に振る。
また外で雷が鳴る。


鳴海は固まってしまった良の体を抱き上げ、自分の胸に頭を預けさせる。



『良クン、雷が怖いくらいで、謝らなくても良んだ。……安心してくれ。良クンが眠れるまで、俺が傍に居てやるから』

優しく背中を叩いてやりながら、鳴海は子供部屋から廊下へ出る。
良は耳を押さえたまま、状況が解らずオドオドしている。


鳴海は自室の扉を開け、良を抱えたままベッドへ体を滑り込ませた。


「恭介さん……?」


『良クン。君が嫌じゃなかったら、今夜は一緒に寝ようか』

良の髪を梳かすように撫でながら、鳴海は優しく言ってやる。


「……でも…」

良は戸惑った。
雷が鳴る中、兄弟達が居るとは言え、自分1人だけで再び眠りに入るのは難しい。
しかし、鳴海と一緒に寝て、彼に迷惑ではないだろうか。


『今、色々と考えてるんだな。けど、良クンはどうしたいのか、を教えてくれよ』

撫でられている頭が心地好く、雷がまだ鳴っている中、フワフワ眠気がやってくる。


「……いっしょに、ね…たい、です……」


『うん。……おやすみ』


鳴海の温かな腕の中で、良は再び夢の中へ入っていった。
鳴海は小さな良の体を抱き潰してしまわないよう気を付け、眠りに就いた。




―――――――…………‥‥

――………‥‥




翌日 午前6時30分過ぎ


皆の朝食を作る為、鳴海は体を起こす。
すると、寝巻き代わりに着ているTシャツの胸元を引かれる感覚。
視線を下に落とせば、昨晩一緒に寝た良がシャツを名残惜しげに掴んでいた。

今はまだ気持ち良さそうに眠っている。


『困ったな』

口ではそう言うものの、擽(クスグ)ったくも嬉しい感覚が込み上げ、だらしなくも自然と頬が緩む。


鳴海はそのまま体を起こし、良を抱いたままキッチンへ向かう。その際、良には小さなブランケットを被せてやる。

良を落とさないよう片手でしっかり支えながら、鳴海は朝食を用意していく。
と言っても片手で出来る事は限られており、更には良も居る為、包丁や火を使う訳にはいかない。

冷蔵庫からレタス、トマト、ハム、卵数個にシーチキンにジャム各種。そしてクロワッサンやバターロール、食パンなど、サンドイッチやサラダといった、簡易的なものの材料を集める。

卵はどうしても火を必要とする為、体ごと良を火元から離し、卵を鍋にかける。



材料と器具を食卓に置き、椅子に座りながら作業をする。

時折、良が身動ぎ、ずり落ちるブランケットを直しつつ、鳴海は緩んだ表情そのままに朝食を作っていく。



「おはようございます」

リビングの扉を開け、1番に起きてきたのは征十郎。……いやテツヤも一緒のようだ。

2人は鳴海の胸で眠る良に一瞬目を丸くするが、昨晩の事を説明すると納得する。


「恭介さん、オレたちもてつだいます」


『折角の厚意だしな。じゃ、お願いするよ』



「ゆでたまごなら、まかせてください」


『火を使ってるから、気を付けてな』


視線を動かせば、征十郎がレタスを千切り、テツヤが茹で玉子を見ている。

そして良はまだスヤスヤと眠っている。


こんな日も、とても幸せだ。












朝食の準備が終わる頃、続々と子供達がやって来て、案の定、和成が小さな悲鳴を上げる。


「良ちゃんずりぃ!!」


そして意外にも、その後現れた涼太も同様の悲鳴をあげた。


「良くんズルいっスー!オレも、オレも!」






この日をきっかけに、鳴海は子供達と(1日交代制)一緒に寝る事となった。



流石にこの喧騒で目を覚ました良は、状況を悟った直後、いつもの口癖を叫んだ。









「す、スイマセン――――!!」





end

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