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□鳴海さん家の子供達*
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俺には幼馴染みと呼べる人が2人居る。

大澤優一郎と鳴海恭介。

2人は俺より1つ年上で、特別家が近いという訳ではないが、物心ついた頃には常に一緒に遊んでいた記憶がある。
いつも先に2人が公園に居て、後から俺が加わる形だった。
2人共下に弟や従兄弟が居たから、俺をよく可愛がってくれていた。


と、昔話は一端置いておく。


俺には幼馴染みが2人居る。
で、その幼馴染みの1人、恭介さんに最近“子供”が出来たらしい。それも9人。

……事情がよく解らないが、強いて言うなら“子供”というより“弟”だという表現が相応しいか。何たって恭介さん自身がかなり若い上に、結婚すらしていない。
けど小さな子供が彼と共に棲んでいる事は間違いない。


……正直俺もまだ頭の整理が出来てねぇ。
何故なら俺自身、偶々入ったスーパーで偶々買い物をしていた恭介さん(久し振りに逢った)に告げられたばかりなんだからな。






『真…? 大丈夫か…?』

「何がどうなって9人もの子宝に恵まれんだよ……」

大量の食材や雑貨が入った袋を抱えた恭介さんは、頭痛のする頭を抱える俺を心配げに見下ろしている。
つかこの人、いつもこんな量の買い物1人でしてんのか?


『いつもって訳じゃねーよ。休日なら子供達が居るし、予定が合えば立花……ダチとかが付き合ってくれるしな』

恭介さんは荷物の持ち方を変えながらそう言った。
要するに、休日と友人達の予定が合う日以外、恭介さんは1人でこの量の荷物を運んでるって事だろ。

(……言ってくれれば、手伝いに行くんだけどな)


『いやお前部活あるだろ。主将+監督。めちゃ忙しい上にただでさえバスケってかなりハードなんだろ。優一郎が言ってたよ』

「主将+監督だからだよ。部活抜けるくらいどうって事ねー」

『職務濫用すんなよ』

恭介さんはくつくつ肩を揺すって笑う。
そんな彼に俺は僅かに口元を緩め、その腕を占拠していた荷物の一部分を掠め取る。
その際、何か言いたげに口を開いた恭介さんを尻目に、俺は早急に歩き出した。
先手必勝してしまえば、人の厚意を無下には出来ない恭介さんは口を噤ぐしかない。


『サンキュー、真』

苦笑い気味に、しかし嬉しそうに恭介さんは礼を述べる。


『けどホント久し振りだよな。真が高校に上がったくらいからだっけ?電話とかメールはしてくるクセに、試合とかは呼んでくれねーし』

残念がる恭介さん。
当たり前だ、試合になんか呼べるはずがない。
恭介さんにはバスケ部の主将、そして監督をしている事は伝えてあるが、俺達がどんなチームなのかは一切話していない。

だから恭介さんは知らない。
俺達のやっている事を知れば、彼は間違いなく怒るだろう。それどころか1発殴られるかもな。だが、それならまだマシだ。

俺が1番危惧いているのは、恭介さんが泣いてしまう事だ。恭介さんは他に類を見ない、優しい性格をしている。
俺の事、チームの奴等、相手チームの事、そして俺達が今までに怪我を負わせてきた奴等の事を想い、涙を流すんじゃないだろうか。

俺は偽善者や周囲を無償の愛だの何だので手助けする奴が嫌いだ。虫酸が走る。
特に誠凜の奴等、中でも木吉なんかは名前も聞きたくねぇくらい気に入らない。


そう言った風に言えば、俺と恭介さんは相性最悪に思える。現に彼はイイ子ちゃんのカテゴリーに収まってる。
…だのに、俺は恭介さんを嫌う事が出来ないでいる。


ちらっと恭介さんを盗み見る。
表立って騒がれはしないが、血筋が良い為、悪くない顔立ちをしている。
俺は別に面食いって訳じゃないが……まぁアレだ。察しろ。

店を出て数十分。恭介さんの棲むマンションに辿り着く。
数年振りに上がる恭介さんの自宅。
相変わらず余計な物は置かれていない小綺麗な部屋だ。


『荷物テーブルに置いといてくれ。後で片すから』

そう言って恭介さんはベランダに干されていた洗濯物を仕舞いに出た。
言われた通り荷物をテーブルに置き、手持ち無沙汰になった俺は何となしに部屋を歩き回る。

改めて見て回ると、確かに男1人の部屋とは違い、子供が居るのだと判る内装だ。


食器棚の中には小さな茶碗やコップ。洗面所には子供用の歯ブラシと歯みがき粉。キッチンの角には大量のお菓子。クローゼットやタンスには豊富な子供用衣類。

そして決定的なのは、キャビネットの上に置かれた子供の写真。
趣味が写真というだけあって、アルバムの数も多い。
赤、水色、緑、黒、青、黄色、茶色、紫。個性豊かな子供達が写真の中で笑っている。そして恭介さん自身も……


「……っ」

胸の奥が変に疼く。
彼は幼い頃に母親と別れ、父親も滅多に家に帰らない寂しい日々をいつも送っていた。
彼は人一倍“家族”と言うものに憧れていた。
そんな恭介さんに“家族”と言うものが出来た。嬉しいのは当たり前だろう。

けど、どうしても俺はそれを素直に喜んでやれない。祝福してやれない。






―――俺は、俺自身が恭介さんを幸せにしてやりたかったんだ。






ピンポーン――!


インターホンが部屋の中に響き渡る。
それを聴いた恭介さんの表情を見て、その主達を察する。


「恭介さん、ただいまー!!」

続けて元気な声が玄関から聴こえ、目の前にある写真と同じ子供達がリビングに現れた。


『――おかえり、皆』

洗濯物を抱え、恭介さんが柔和な笑みを浮かべて子供を迎えた。

「……恭介さんのおともだちですか?」

クリクリとしたでっかい目を丸くし、亜麻色の髪の子供が俺を見上げてきた。
そいつを初めに、残りの7…いや8人も俺を見上げてきた。
……おい、何1人だけちゃっかり恭介さんに抱かれてやがる。



『このお兄さんは花宮真。俺の幼馴染みだよ』

「幼なじみってなんスか?」

「オレ達みたいに、小さいときからいっしょにいる人のことだよ、涼太」

金髪の子供の質問に鮮やかな緋色の子供が答えてやる。つかこのガキ、子供とは思えねーくらい落ち着いてるな。どこの名探偵だよ。



「……ふーん?」

1人だけ抱っこされてる黒髪の子供が値踏みするように俺を見る。
猛禽類みてぇな鋭い目つき。それが一瞬スッと細められる。


「あ、そうだ!恭介さん、ただいまっ!」

『ん、和成おかえr』

瞬間、俺は目を見張った。
恭介さんの頬に、黒髪の子供が口を寄せたように見えた。いや実際触れてる。


「へへっ、ただいまのチュウだよ!」

幼い犬歯を覗かせ、その子供が無邪気に笑う。
恭介さんはポカンとしており、目を白黒させている。つまり恭介さんがソレを教えた訳ではないらしい。


「あー!オレも、オレもチュウするーっ!」

言うのが早いか、金髪の子供も呆けてる恭介さんの頬に口を近付けた。因みにテーブルの上によじ登ってだ。


『……真太郎クン、どこでコレ覚えてきたんだ…?』

紫髪の子供にキスされながら、恭介さんは真っ赤な顔をして震えている緑髪の子供に訊ねた。
その小さな腕に抱えられたカエルの抱き枕が苦しげな表情を浮かべている。(つか何でそんなモン学校に持って行ってんだ)

緑髪の子供はゆでダコのようになった表情を強張らせ、震える唇で呟いた。




「は………ハレンチなのだよっ!!」

『やべぇな。真太郎クンそんな難しい言葉も知ってんのか』

いや感心してんじゃねーよ。そして振り絞って発した台詞が「破廉恥」って何だよ。


「帰り道でモリヤマさんに会って、おしえてもらったんス!スキな人とは“いってらっしゃい”と“ただいま”のチュウをするんスよ!」

キラキラとした、下心も何もない無垢な笑みを浮かべて、そいつはもう一度恭介さんの頬に口付けた。……そのモリヤマって人、子供になに教えてんだよ。


『やっぱ森山サンだったかぁ……。相変わらずだな』

恭介さんは苦笑いを浮かべ呟いた。
だが苦笑いと言うには少しばかり語弊があるかもな。――ずいぶんと嬉しそうだ。


『さってと、外から帰ったらまず何すんだっけか?』

恭介さんが言うと、返答する代わりに子供達が移動する。移動先は洗面所。

「恭介さん、おやつはなんだ…!」

『今日はシュークリーム買ってきたよ。…てな訳だからお前も手洗い・うがいして来い』

青髪の子供の質問に答え、恭介さんは抱いていた黒髪の子供を降ろした。
子供は洗面所に向かう途中、俺を見上げ、突然ビシッと指を差してきた。




「オレのほうが恭介さんのことスキだかんねっ!!!」

「はあ!!?」

いきなり過ぎる宣戦布告に思わず声を上げてしまう。
鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしている俺を見て、やりきったと言わんばかりにそいつは駆けて行った。


『……なんかごめんな?』
振り向くと、口では謝っているものの、その表情ははにかんでいる。好きと言われ、嬉しくない人間はそう居ない。それを溺愛する我が子(弟?)に言われたなら尚のこと嬉しいだろう。


「……はっ」

すっかり子煩悩になっている彼が、俺はどうしても面白くない。


『真……? 和成の事、怒ってんのか?』

半分正解だな。
そう答え、俺は顔に笑みを張り付け、恭介さんに近寄る。
手を伸ばせば届くような距離だが、敢えて俺は彼との距離を縮める。

すると他者の感情に敏感な恭介さんが俺の"何か"を察し後ずさる。しかし逃がしてやる気はない。更に彼の後ずさる先は壁だ。脳内でどこの少女漫画だと嘲笑いながら、恭介さんを壁まで追いやる。

『――!』


恭介さんの背中が壁に当たる。
反射的に自身の背後を見遣った恭介さんの腕を掴む。恭介さんは驚き、抱えていた洗濯物を落とした。








―――バァカ、俺の方が………アンタの事好きに決まってんだろ……っ



『っ……!』

バッと耳を押さえた彼の手を絡め取り、壁に縫い付けた。
明らかに動揺していると窺える瞳が俺を捉える。そして息を吸う為か言葉を発する為か、開きかけたその口を塞ぐ形で自分のそれを重ねた。……本当、どこの少女漫画だよ。


「…………」

薄目で恭介さんの表情を見遣る。
彼の事だから、例え嫌でも表情には出さないだろうな。
柄にもなく、恐る恐る恭介さんの顔を窺う。


瞬間、ドクンっと心臓が跳ね上がった。

羞恥心からか耳まで赤ら顔。眼は閉じられておらず、揺れる瞳は涙の膜を張りながらも俺を真っ直ぐに捉えている。
その瞳からは「嫌悪」は見えない。


「ふはっ、……なんつー表情(カオ)してんだよアンタ」

たった1cmしか違わない身長のおかげで、容易に恭介さんの顔を覗き込む。
恭介さんは逃がす事の出来ない熱に苦笑しながら言う。



『お前と違って経験ねーんだよ……俺は…』

「は…あ!?」

思いも寄らぬ発言に、俺は反射的に声を溢した。


『俺は誰とも経験ねーんだよ…! 何度も言わせんな…っておい、真 !?』

恭介さんの肩に額を置く。心配気な声をすぐ傍で聞き流しつつ、俺はにやける口元を隠した。
恭介さんの言葉通りだとすれば、今のがファーストになるって事だろ?
しかも見るからに脈アリだ。これをにやけずに居られるかよ。

恭介さんはその性格上、あからさまな拒絶はしないが、嫌なものは遠回しに避ける。
極めつけはさっきの態度…。

「なぁ、恭介さん」

再度彼の耳元に口を近付ける。
それだけで照れ屋な恭介さんは耳を赤くする。













「 俺に必ず惚れさせてやるから 」






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


なんだコレ(笑)
全くもって設定も、花宮自身も活かせてないと言う……((苦笑

絶対的なコレジャナイ感。

この後、きっと戻ってきた和成とバチバチと火花が散ってんだろうなぁ…と。
ダメだ、何を言っても駄文には変わり無い……


お目汚し、誠に申し訳ありませんでした!!!


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