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□番外ホラー「旅館」
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「おーい高尾ー、緑間ー」


高「ん、なにー?」


今週末は連休。しかも部活も無いなんて珍しいから、後ろの席の真ちゃんと連休について喋っていた。



「今週末、連休だろ?だからオレらちょっとした旅行しようと思ってんだよ」


「まぁ旅行って言っても日帰りなんだけどな」


「でさ、良かったらお前らも一緒に行かないか?」

順に鈴木、小野、佐藤が訊ねてきた。
コイツらとは真ちゃんも含め、なかなか親しい間柄だ。



緑「……学生だけの旅行など、高が知れてるのだよ。俺は遠慮させてもらう」

高「まぁそう言うなって真ちゃん。もしかしたらラッキーアイテムに使えそうな物があるかも知んねーよ?」

オレの言葉に、真ちゃんはピクッと肩を震わせる。


緑「……どうしてもと言うなら、行ってやらん事もないのだよ」


「じゃ決まりな!日曜の午前9時、駅前広場に集合な!」

そう言って鈴木は事細かに旅行先の観光地、また穴場についてなど、他にも色々な事を教えてくれた。












そして来る日曜日。
誰も遅れる事なく順調に旅行先へ出発し、大きな問題もなく観光地や穴場を巡る事が出来た。
真ちゃんもラッキーアイテムになりそうな物を買えたようで、満足そうだった。


日も大分暮れてきて、そろそろ帰ろうか、と言う雰囲気になった。


オレらが今歩いてる道は、過疎化の進んだ、寂れた村。
正直日も暮れてきた事もあって、かなり不気味だったりする。




「あれ……?」

小野が声を上げる。


「どうしたんだよ」

倣って佐藤がバスの時刻表を見て、「マジかよ」と溢した。



高「どうしたのよ、お前ら」


「いや……それが、」


「バスが、もう無いらしいんだ……」

小野が濁すと、佐藤が苦笑いを浮かべて言った。
見ると、利用者が居ないからか、2時間前にバスは終わっていた。



「……仕方ねー、どっか泊まれるトコ探すか。幸い、明日はまだ休日だしな」

鈴木の言う通り、今日はどっか宿を探さねーといけない。
ここからじゃ駅までかなり距離があるし、何より1日中歩き回ってたから皆クタクタなんだよな。



緑「……まったく。これだから無計画な旅行は……」

高「まぁ真ちゃん。仕方ねーって。それより、家に連絡しねーと」

各自家に連絡を入れ、早急に泊まれる場所を探す。
ネットでいくつかヒットするが、どこも距離があって、歩いて行くのは無理そうだ。





「――あ、ここ!」
鈴木が指差す。

従って視線を向ければ、旅館が建っていた。
ちょっと古いけど、ちゃんと電気も点いてるし、趣のある旅館だ。


「よかったー!オレ最悪野宿とか考えてたわー!」

「はは、正直オレも」

鈴木と小野が明るい声で言う。


「……けどネットには掲載されてねーな。もしかして穴場の旅館なのかな?」

佐藤は一瞬首を傾げつつ、内心穴場スポットを見つけた事に興奮してるみたいだ。




高「よかったな真ちゃん!これで野宿せずに済みそうだぜ!」

オレは笑みを浮かべて後ろを振り返る。
まだ怒っているのか、さっきから真ちゃんは黙りだ。



高「……真ちゃん?」

だけど、見上げた真ちゃんの表情は予想しないものだった。


緑「高尾……」

翡翠色の目を大きく見開き、肩も大きく震わせている。
キレイに整った顔を蒼白させ、真ちゃんは絞り出すように呟く。


緑「……この旅館は……止めておいた方が……いいのだよ……」

高「え」


「おーい、2人共!なに突っ立てるんだ?」

「早く入ろうぜー!」

急かすアイツらを背に、オレは真ちゃんに訊ねる。



高「真ちゃん、どういう事……?」


緑「……俺には、少しばかり霊感がある。あまり強い訳ではないが“居る”“居ない”の判断はつく……。ここは……“居る”のだよ」


高「マジかよ……」


普通そんな告白を受けても、すぐには信じられねぇ……。けど真ちゃんの様子を見るからに、嘘じゃなさそうだ。




高「なあ、ここやっぱりやめねーか……」

近くに居た佐藤の肩を掴む。


「え、高尾どうしたんだよ、急に」


高「なんつーか……その」

幽霊が居るって言っても、泊まる気満々のコイツらはきっと信じない。


「大丈夫だよ、高尾。ちょっと古いけど、旅館の人達もいい人そうだしさ」

高「ちょ、佐藤!」

オレの手から逃れ、佐藤は旅館へと入って行った。


高「真ちゃん、どうしよ……」


緑「……俺はもう少し歩いてみるのだよ。……高尾、せめてお前だけでも…」

真ちゃんは最悪、野宿も視野に入れているようだ。思わず聞き返せば、明らかここよりは安全だ、と返ってきた。


高「いや……、何も知らねー3人だけにしとけねーよ。もし何かあった時、動けるヤツが1人くらい居ねーとさ」

じゃ、気を付けてな。
そう言って、オレも旅館の入り口へ向かう。


緑「……高尾」

声に振り向くと同時に、何かが飛んできた。
受け取って見ると、さっき観光地で彼が購入していた“お守り”だった。


緑「……明日の蠍座のラッキーアイテムだ。生憎今日のラッキーアイテムは持ち合わせていないのだよ……。応急措置にしかならんかも知れんが、無いよりは確実に良いはずだ」


高「……いや、つか、これアイツらに渡した方が……」


緑「俺が買ったのは1つだけだ……。誰に渡したところで、結局1人分だ。なら明日のラッキーアイテムであるお前に渡すのが妥当なのだよ」


旅館の敷地から去っていく緑間は、最後に「かならず無事に朝を迎えろ」と言っていた。










「あれ?緑間は」


高「あー、なんか明日大事な用事があるとかで、どうにかして帰るって言ってたぜ」

体力あるなーアイツ。っと笑いながら、鈴木は案内する女将さんの後ろに続いた。




こうして、長く恐ろしい夜が始まった。
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