give&take
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「じゃ、一茶センセイ、お願いします!」
「……先生ってやめませんか」
2人は手を洗い、身仕度を整える。
「まずは材料を切りましょうか」
一茶は発言してから疑問を持った。陽はどの程度の腕なのだろうかと。
今回作るオムライスは昔ながらのごく簡単なもの。
陽は一茶の指示通り、まずは玉ねぎを切っている。
手つきも別段危なっかしい様子もなく、リズム良く出来ている。
眼に染みるようで、たまに傍に置いてあるタオルで涙を拭いている。
「う〜…眼に染みるっ…」
切り終わったようで、陽が眼を洗う為移動する。
その間に切り終わった玉ねぎを見て、一茶は陽の腕を把握する。
大小様々なサイズに切られた玉ねぎたち。
ミリサイズのものもあれば、2cm程の大きなものもある。
聞いた話によると、手先を使うものが苦手らしい。
いわゆる不器用だと言う。
続けてウィンナーを切ったり、缶グリンピースをザルにあけたりと、少し繊細さに欠けるものの、準備が整っていく。
ケチャップライスに少し苦戦し、生憎のベチャッとしたものになってしまったが、味はいいので良しとなった。
そして最もこの料理のメインと言える卵に差し掛かる。
フライパンにバターをひき、香しい匂いが立ち込める。
ボウルに卵を割り入れる訳だが、陽はここに苦戦した。
パキャ…!
「………」
メキャ…!
「ぅぅ…」
かれこれ6個ほど失敗し、その残骸は別のボウルに移されている。
コン…コン……
10個入りパックの最後の1個を割る。
2人とも、料理をしているとは思えない真剣な表情をしていた。
補足だが、熱されたフライパンは、一茶が濡れ布巾の上に移しておいた。
――パカッ…!
「わ、割れた!割れたよ一茶!!私やったよ!!」
「はい、よく頑張りましたね陽さん!」
「一茶のおかげだよー!」
「いえ、陽さんが諦めずに頑張ったからですよ」
やったー!!と声を大に喜ぶ2人の姿はとても微笑ましいもの。
まるで強敵相手に1点差で勝てたように陽は興奮し、一茶も陽程ではないにしろ、ホッと安堵した。
……忘れてはならない。これはサッカーではない、料理でありただ卵が割れただけである。
ジュワァァァ……
卵を流し入れ、焼きすぎないよう注意し焼いていく。
あと少しで料理が完成する。
同時進行で一茶が作っていたスープとサラダも、あとは盛り付けるだけだ。
「不動さん…喜んでくれるかな…」
一茶に尋ねる訳でもなく、独り言のように呟く陽。
憂いをおび、どこか知らない女性のように見える彼女の姿に、一茶は思わずドキリとした。
自身の事はさて置き、一茶は別段恋路に疎い訳ではない。むしろ聡い方だ。
最初、南沢と付き合うようになり、“恋”を知った為に彼女の雰囲気が変わったのだと思っていた。
いや、着眼点に間違えは無かった。
違うのは“恋”をしている相手だった。
部活の際、陽は時々南沢の話をしていた。とても楽しかった、嬉しかったと言った内容だった。彼女自身もとても楽しげに話していた。
その時、陽は普段と変わらない、無邪気で明るい彼女だった。
しかし、不動の事を考えている彼女はどうだろう。
楽しそうで、恥ずかしそうで、憂鬱そうで……苦しそうだ。
「大丈夫です。とても喜んで食べてくれると思います」
「……うん…!」
――嗚呼この女性(ヒト)は……
「不動さん、おいしいって言ってくれるかな…」
――こんなにも貴方を愛しているんですよ……?
「心配しなくても大丈夫ですよ、陽さん」
――不動さん……。
-END-
-オマケ-
「勿体ないので、ダメになったヤツで卵焼きにしました」
「えっ!!? いつ作ってたの!?」
「陽さん、お昼食べてないでしょう?たぶん、そこに捨ててあったゼリーで済ませた気でいるんでしょうけど…」
「(う、バレてる……)でも、私そんなにたくさん食べられないよ…?」
「平気です。俺が食べられますから」
「………えっ!?」
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