give&take

□3
4ページ/5ページ



「じゃ、一茶センセイ、お願いします!」


「……先生ってやめませんか」


2人は手を洗い、身仕度を整える。


「まずは材料を切りましょうか」

一茶は発言してから疑問を持った。陽はどの程度の腕なのだろうかと。

今回作るオムライスは昔ながらのごく簡単なもの。
陽は一茶の指示通り、まずは玉ねぎを切っている。

手つきも別段危なっかしい様子もなく、リズム良く出来ている。
眼に染みるようで、たまに傍に置いてあるタオルで涙を拭いている。



「う〜…眼に染みるっ…」

切り終わったようで、陽が眼を洗う為移動する。
その間に切り終わった玉ねぎを見て、一茶は陽の腕を把握する。

大小様々なサイズに切られた玉ねぎたち。
ミリサイズのものもあれば、2cm程の大きなものもある。

聞いた話によると、手先を使うものが苦手らしい。
いわゆる不器用だと言う。


続けてウィンナーを切ったり、缶グリンピースをザルにあけたりと、少し繊細さに欠けるものの、準備が整っていく。


ケチャップライスに少し苦戦し、生憎のベチャッとしたものになってしまったが、味はいいので良しとなった。


そして最もこの料理のメインと言える卵に差し掛かる。

フライパンにバターをひき、香しい匂いが立ち込める。

ボウルに卵を割り入れる訳だが、陽はここに苦戦した。


パキャ…!


「………」


メキャ…!


「ぅぅ…」

かれこれ6個ほど失敗し、その残骸は別のボウルに移されている。




コン…コン……

10個入りパックの最後の1個を割る。
2人とも、料理をしているとは思えない真剣な表情をしていた。

補足だが、熱されたフライパンは、一茶が濡れ布巾の上に移しておいた。




――パカッ…!



「わ、割れた!割れたよ一茶!!私やったよ!!」


「はい、よく頑張りましたね陽さん!」


「一茶のおかげだよー!」


「いえ、陽さんが諦めずに頑張ったからですよ」

やったー!!と声を大に喜ぶ2人の姿はとても微笑ましいもの。


まるで強敵相手に1点差で勝てたように陽は興奮し、一茶も陽程ではないにしろ、ホッと安堵した。


……忘れてはならない。これはサッカーではない、料理でありただ卵が割れただけである。




ジュワァァァ……

卵を流し入れ、焼きすぎないよう注意し焼いていく。

あと少しで料理が完成する。

同時進行で一茶が作っていたスープとサラダも、あとは盛り付けるだけだ。


「不動さん…喜んでくれるかな…」

一茶に尋ねる訳でもなく、独り言のように呟く陽。
憂いをおび、どこか知らない女性のように見える彼女の姿に、一茶は思わずドキリとした。

自身の事はさて置き、一茶は別段恋路に疎い訳ではない。むしろ聡い方だ。


最初、南沢と付き合うようになり、“恋”を知った為に彼女の雰囲気が変わったのだと思っていた。
いや、着眼点に間違えは無かった。
違うのは“恋”をしている相手だった。


部活の際、陽は時々南沢の話をしていた。とても楽しかった、嬉しかったと言った内容だった。彼女自身もとても楽しげに話していた。

その時、陽は普段と変わらない、無邪気で明るい彼女だった。



しかし、不動の事を考えている彼女はどうだろう。

楽しそうで、恥ずかしそうで、憂鬱そうで……苦しそうだ。





「大丈夫です。とても喜んで食べてくれると思います」

「……うん…!」





――嗚呼この女性(ヒト)は……




「不動さん、おいしいって言ってくれるかな…」





――こんなにも貴方を愛しているんですよ……?







「心配しなくても大丈夫ですよ、陽さん」












――不動さん……。



-END-













-オマケ-



「勿体ないので、ダメになったヤツで卵焼きにしました」


「えっ!!? いつ作ってたの!?」


「陽さん、お昼食べてないでしょう?たぶん、そこに捨ててあったゼリーで済ませた気でいるんでしょうけど…」


「(う、バレてる……)でも、私そんなにたくさん食べられないよ…?」


「平気です。俺が食べられますから」


「………えっ!?」

_
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ