give&take
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「わ、私に…料理教えてくれないかな」
苦笑いを浮かべ陽は告げた。
「俺でよければ、いいですよ」
一茶の承諾を聞き、ありがとう!と反射的に陽は一茶に抱き着いてしまった。
「……まずは材料を買ってこないとですね」
陽の許可を得て冷蔵庫内を見た一茶はそう言って扉を閉めた。
「じゃ、商店街にあるスーパーに行こうか!」
待ってて!と言って2階へ上がっていった陽は手軽なカバンを提げて戻って来た。
――――---……‥
「ひ、広い…」
スーパーに入店してすぐに一茶はそう溢した。
「リニューアルオープンしてまだ日が浅くて、お客さんもいっぱい来てるみたいだね」
カートを押しながら、陽は表情を強張らせる一茶に説明する。
「――はい」
「え?…この手は……?」
「あ、ごめん!はぐれちゃいけないからって、いつもこうしてるんだけど…」
一茶に手を差し出した陽に疑問を投げ掛けると、彼女はさっきのやり取りを思い出し謝った。
「いつも…という事は、南沢さんとですか?」
「ううん、違うよ。ここにはいつも不動さんと来るんだ。その時、いつも はぐれないようにって不動さんの服の裾を掴んでるの」
「服の裾……?」
(あれ?そんなシーン、どこかで見たような。確か…あれは葵が持ってた“まんが”に……)
物思いに耽っていると、ねぇねぇ、と陽が肩を叩いた。
「なに買えばいいかな?」
そう言われれば、根本的な事を忘れていた。
「なにを作ろうと考えているんですか?」
尋ねれば困ったように眉を下げる陽。
その様子に、一茶は自身の頭に蓄えている料理のレシピを思い浮かべる。
「食べてもらいたいと思う人の好物とかはどうですか?」
「え?」
「料理を教えてほしいって、誰かに食べてもらいたいからなんですよね?」
一茶の言葉に一瞬キョトリとするが、陽の脳裏に、一人の男性の姿が過る。
「うん、確かにそうだね」
気恥ずかしそうに はにかむ陽。以前の彼女は、こんな表情をする事はなかった。
一茶は恋ってすごいんだな、としみじみ感得した。
「でもどうしよう。思えば好きな料理、私知らないや……」
苦笑いを浮かべ、頬を掻く陽。
一茶は思考を巡らせ、提案する。
「じゃあ、その人の好きな食べ物はわかりますか?」
「あ、それなら知ってるよ!確かバナナが好きだったと思う」
「…南沢さん、バナナが好きなんですね。意外です」
一茶が発言した内容に、陽は首を傾げた。
「違うよ、不動さんがバナナ好きなの。今日料理教えて欲しいって言ったのは、不動さんに日頃のお礼がしたくって…」
陽は拾われたあの日から今日までの事を思い浮かべ、頬を緩めた。
一茶も思い当たるものがあり、「そうですね」と頷いてみせた。
「バナナの件はさて置いて、こうなったら陽さんが食べたい物にしましょうか」
「あ、じゃオムライスが良いな!」
「わかりました、じゃオムライスの材料を買いましょう」
作る料理が決まり、陽と一茶は売り場に向かった。
――――---……‥
――--…‥
「結構買い込みましたね。…お金足りますか?」
オムライス他、付け合わせのスープやサラダ類の材料もカゴに入っている。
一茶は表情を曇らせ、陽に伺った。
「大丈夫だよ。いざとなれば私の貯金もあるし、それに今日はこれもあるから!」
ジャーン!と効果音が聞こえてきそうな風に、陽は封筒から1万円を取り出し、一茶に見せた。
「どうしたんですか、それ」
「……不動さんが、これでお昼食べなさいって、置いてってくれたんだけど…」
陽は苦笑いを浮かべ、続ける。
「私そんなに大食いに見えるかな?」
柄ではないが、一応女子としては複雑だとぼやいてみせる陽に、一茶は別の事を考えていた。
(――大切に想われてるんですね)
陽はその人柄から、老若男女から好かれ、慕われている。
一茶もその一人であり、だからこそ本日彼女の頼みを聞き、ここに居るのだ。
「じゃ、お会計してくるね!」
パタパタ駆けていく陽のあとを追い、二人で袋に詰め、帰路についた。
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