□第七話
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―――3年前、取調室



現在この部屋では、一人の警察官と一人の若い女性が机を挟み、向かい合って座っていた。








警官「何故、あんな小さな子を埠頭なんて危ない所に捨てたんですか?」


警察官は静かに、しかし責め立てるような声音で女性に問いた。
女性はここに来てからずっと下を向いたまま、一言も発さずにいる。



警官「もう一度訊きます。
――何故、腹を痛めて産んだ我が子を捨てたんですか?」


母「………」


警官「確かに、貴女のように若い方が育児を断念するケースは珍しい事ではない」


母「………」


警官「しかし、どんな理由があっても捨てる事は間違いなんですよ。施設や親御さんに預ける事も出来たはずだ…!」


貝のように固く口を開かない女性とは対照的に、警察官は懸命に語り、事情を尋ねる。







警官「貴女は、息子さんを愛していなかったんですか!?」







すると、ずっと表情を変えることの無かった女性の目から涙が流れた。
状況の進展を確信した警察官は胸を撫で下ろした。

彼女の自責の念を受け止めようと、警察官は表情を和らげた。
しかし、彼女の口から出てきた台詞は自責でも後悔でも謝罪でもなかった。






母「―――私は…、あの子の事を…なんとも思ってません。出来てしまったので、流れで…産んだだけです」


警官「――ッ!」


母「半年ぐらいは…我慢して育てていましたが、ツラくなって、捨てました」


警官「あんた、ただそれだけで自分の子をッ!?」


母「仕方がなかったんです…。もう疲れたんです…だから――」




――――---……‥





“あの子を捨てました。私の所に産まれなかったら、あの子もよかったのに…”





「――取り調べで、その人はそう言ったそうよ?」


「酷いわよね…、自分で産んだって言うのに」




しみじみと、同情するように園の方を見る婦人達に礼を言うと、響木は「…調べてみるか」と呟き、愛媛の街へと足を向けた。

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