おはなし

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『怖がらせちゃダメだろう』

彼女の足元に、猫が現れた。
するすると、何もないところから。


「ひぃっ!?」


思わずアリスに抱きついた。
庇うようになだめてくれる。


『おや。』

『あら、チェシャも怖がらせているじゃない』

「………チェシャ、猫さん……ですか?」


『アレ。知っているのかい、私を』


「帽子屋さんから、ある程度は」


アリスは和に、大丈夫ですよ、と囁いた。
恐る恐る顔をあげる。

紫と灰色の不思議な配色の猫。
尾が二本ある、猫。


「こ、怖くない?」

「大丈夫です」


『ほら、本題はどうしたんだい』

『そうでしたわ。親指姫の森でしたわね』


彼女は今度は年相応の人懐こい笑みを浮かべた。
そうすると普通に可愛らしい女の子だった。


「知っているのですか?」

『ええ、もちろん。彼女の所に行くときは、植物を大切にしなければいけませんよ?』


しょくぶつ、
口の中で呟く。

童話の親指姫は、確か、花から生まれて。
それで…どうしたんだっけ?


『彼女にとっては、植物は…親であり、兄弟であり、親友なのよ』


混乱する頭で少女の言葉を繰り返す。
チェシャ猫のニヤつき顔が妙に頭に残った。




『親指姫の森はね、』


少女は、宝物の話をするような笑顔で話し出した。





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