おはなし

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外に飛び出すと、緊張で火照った肌に夜風が心地よかった。
とりあえず入り口から距離をとる。
闇雲に走って迷子になっては元も子もない。


家からゆっくりと、継母が現れた。
アリスも小人も無事らしい。どうやら本当に狙いはマリアだけのようだ。


『ああ、白雪、どうして逃げるの?』

「っ」

『私のことが、嫌いになってしまったのかしら?』

「ち、ちがっ…」

「何度も殺されかけたりしたら、その相手を嫌いになるのは普通のことでしょ!」

動揺しているマリアの代わりに和が叫ぶと、継母は眉を寄せ訝しげな表情を作った。


『私は白雪にきいているのよ。貴女じゃないわ』

「うちのお姫様はアンタと話すことは無いそうよ!」

『まあ、酷い言葉遣いですこと。私には話したいことがあるのよ。
いいから、白雪を返して』

「返して、って、マリアさんはアンタのものじゃないし、そもそも物じゃない!」


一層大きな声に驚いたのか、継母の歩みが止まった。
その隙に考えを巡らせる。


(この隙に彼女の手を引いて逃げる?でも何処へ?私は此処に来たばかり、何処も分からない)



「(泉があるんだ)」

「えっ?」

マリアは小さな震える声で言った。
息を吸ってから彼女が続ける。

「(近くに泉があるんだ。そっちに行った方が、アリスも小人も危険に晒さずに済む)」


和は小さく頷いた。
目はしっかり継母を見つめている。


「(悪いな、ナゴミは危険に晒してしまいそうだ

でも情けないことに、足が動かなくてな)」


苦笑するように言った。
見た目よりも参っているらしい。


「わかった。引っ張ってあげます。

――方向指示お願いね!」


しっかりとマリアの手を取って走り出した。

運動部ではないが、体力にも運動能力にもそこまで不安はない。

マリアの指示を聞きながら進む。
ローファーを履いて登校した朝の自分を恨んだ。




『白雪!』




悲しげな叫びを背中で受けながら、速度をあげた。
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