おはなし

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考えるよりも先に口が動いていた。

――そうだ。魔女が持ってくるのは毒林檎。
それを食べて、白雪姫は一度死んでしまうんだ…


「毒…?」
「ナゴミ、何故そんなこと……」

アリスが不思議そうに聞いてきたがそれどころではない。
焦る和とは対照的に、継母は落ち着いて、しかし被った布の向こうで目を丸くした。


『バレてしまっていたのね、意外だわ。
あぁ、これなら貴女を、私のものに出来ると思ったのに…』

特に残念そうでもない口調で言うので少し戸惑った。
そのとき、女性の声が響いた。

『何をやっているの、女王サマ。
はやく白雪姫を殺して、自分のものにしてしまいなさいな』


辺りを見回すと、その人物は扉の影から音も立てずに出てきた。
クセのかかった短い白髪に、透き通るような青の瞳。黒を基調にしたドレス。
暗がりながらわかる、まるで絵画から抜け出たかのような美しさだった。


「アリサ…」

『あら、その声は忌々しいアリスね。
大嫌いだし殺してしまいたいけれど、今用があるのはあなたじゃあないの。』

一気にそう告げると、継母にもう一度、『さあ、はやく』と声をかけ、
夜の闇に溶けるように消えていった。


「アリサっ…」

苦々しい表情でアリスが呟く。
和はアリサと呼ばれた女性の消えた先を凝視した。もう既に人の影などない。


『………ふ、うふ、うふふっ』

突然の笑い声にすぐ継母に視線を戻した。
普段ならば美しいであろう仕草でしばらく笑い続けたあと、彼女は手を下ろした。


『そうね。
毒林檎は失敗してしまったけれど、でも』


「「「!!!!」」」


継母はそのままどこからともなくナイフを取り出した。
それをすっと構える。


『こうしてしまえば良いのよね』



「まっ…マリアさん危ない!」

白雪姫にナイフが降り下ろされるより先に、
和が彼女の手を取って走り出した。

アリスは小人が守るように囲っているのを見ていたのでそちらに任せる。


何とか継母の隙を見て脇を通り抜けると、そのまま外に飛び出した。






(こんなおとぎ話聞いたことがないよ、お母さん)





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