おはなし

□はじまりはじまり。
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「わぁ…」

店内には、小さな街のような模型が飾られていた。
近代的なそれでなく、どこか童話に出てくるような街。

和はそれに釘付けになった。



「いらっしゃい」




「っ!」

低い嗄れた声で呼び掛けられ、びくりと体が震えた。
そうっと振り返る。

其処に居たのは背の低い老婆だった。布を被っているせいで顔は解らない。


「いらっしゃい」

彼女はもう一度言った。

「か、勝手に入ってすいません」

「構わないよ。此処に人が来るなんざ久し振りだね」

「そう、なんですか」


クスクスと老婆は笑う。
和は少し怖くなり、話を変えた。

「あのっこれ、良く出来てますね?」

「これかい?なんだ、気に入ったのかい?」

「はい、とても」

すると老婆は
そうかい、そうかい、と何度も嬉しそうに頷いた。



「此処にはね、沢山住んでいるんだよ」


え、と無意識に聞き返した。
彼女はその嗄れた声で続ける。


「これはね、お伽噺の街なんだよ。沢山登場人物が住んでいるんだがいかんせん仲が悪くてね」


この人は何を言っているんだろうか。

和は恐怖を感じ、後ずさった。


「あの、私、これで」


がつ、とその細く骨ばった手が和の腕を掴む。
反射的に小さく悲鳴を上げ振りほどこうとしたが、無理だった。

思ったより力が強かったのだ。

その手を見、思い出していたのは小さい頃読んだ絵本。


まるで、童話に出てくる悪い老魔女の腕みたい…


「見に行ってみるかい?」

掴まれた部分が熱くなった気がした。
その事を認識した途端、和の意識は段々遠くなって行き、






遂には意識を手放したのだった。








(登場人物は揃いました)
(さぁ、これからはじまります)
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