Due-V-
□愚か者たちの唄
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拳銃を仕舞い込み、煙草を入れ替えるように取り出す。ひとつだけ抜き、火をつける。闇に灯る赤色は、隣に佇む長身の眼窩に収まるものと同じ色をしていた。
ゆったりと紫煙を吸い込み、吐き出す。
すぐにそれは生温い風に運ばれて夜に溶けた。
地面に落ちた、もとは命あり喋って動いた人間「だったもの」は、ただの肉塊になっている。こうなれば最早、芥と変わりない。絶命しているのは明らかで、心臓を射抜いた弾丸はリゾットの手によって回収された。これで、姿かたちない魔弾で射貫かれたことになる。
警察もさぞかし苦労するであろうが、そんなことを気にする二人ではなかった。そんなことをいちいち気にかけていれば、自分たちが生きていけなくなる。平凡とは大きく掛け離れた「生活」を営む彼らには、知られずにひそりと相手を仕留めることが重要だった。
黒い頭巾の下の鋼色の髪や、片側の頬にべったりと血糊がついている。それを袖で拭い、切れた頬をスタンドの能力でふさいでいく。相手の抵抗にあって、ナイフでしたたかに切り裂かれたのだ。程なく血はとまり、傷は癒えていく。
便利だな、とプロシュートは小さく笑った。
翡翠色の瞳を細めて、煙草を足元の溝に放り投げる。
「なんともまあ締まりのない幕引きだったな。ボスに逆らって、麻薬のルートをバラした挙句、自分がそれを乗っ取ろうとしたザマがコレだ。」
「不幸な男だ。」
「お利口さんじゃ無かったのさ。」
腕を組み、壁に凭れて言った。
「相手が俺とお前じゃなかったら、まだ逃げ延びることは出来たかもしれねェ。だが老化させられて、おまけにテメェに刃物で挑んだんだ。勝負なんざ目に見えてる。」
「こいつがスタンド使いだったら、結末は分からなかった。逆かもしれない。」
「ああ、そうだな。だが現実はそうじゃなかった。どうして自分の脚が衰えて、喉から鋏が飛び出して、トドメにワルサーで撃ち抜かれたのかなんて知らずにあの世で不幸を嘆いてるだろうよ。」
リゾットの紅い瞳は、静かに男を見下ろし、それからプロシュートに移る。
「ボスに逆らうのは、愚か、か。」
「違いないだろ?現にこうして哀れな男が亡骸になってンだ。」
片手をひらりと挙げて下ろし、肩を竦めた。
「今やアイツに逆らう阿呆はそういねぇ。いたってこうして芥処理係りや親衛隊が御出でましになって人生のジ・エンドだ。そうわかってて反逆するのは、――――大馬鹿野郎のすることさ。」
リゾットは立ち上がる。その傍まで歩み寄り、白く細い指が彼の浅黒い肌の、丁度心臓の位置を示した。とん、と叩く長い指。
「例えば、俺とアンタみたいな。そんな大馬鹿野郎さ、救われねえほどに阿呆な連中ってことさ。」
「お前は、別に従わなくてもいいんだぞ。」
低く、温度の感じられない声色。その台詞に、声を上げてプロシュートは笑った。
「それこそ冗談じゃねエよ、リーダー様よォ。俺ァ、アンタに惚れてんだ。俺だけじゃなく、全員がアンタの考えに“Si”と言ってらァ。馬鹿な真似はよせ、これは俺の問題だ、だなんて言ってみろよ、その横っ面を張っ倒してやっからなリゾット。」
「プロシュート、」
「仮に、だ。テメェが俺達についてくるなと言っても、言うことを聞くような“GoodBoy(お利口さん)”なんざいやしねぇよ。もしいたら、俺がケツを蹴飛ばしてやる。」
リゾットは一度、眼を瞬かせ、動かぬ表情筋のままに言う。
「それは痛そうだ。」
「ああ、痛いぜ。せいぜい、蹴飛ばされないように気をつけるこった。」
夜が白み出す。その前に姿を消さねばならない。明るくなり始めた夜空を見上げ、それから白い吐息を出した。爪先を帰路に向けて、二人揃って歩き出す。
いずれ、倒れている男と似た末路を辿っても構うものかとプロシュートは笑った。
愚か者たちの歌
(我々はそれしか知らない。例えそれが愚かだとしても、他の歌詞を囀れぬ。)
Ed.
あとがき
すごい久々に更新しました暗殺チーム。大好きなんですがね。インテ大阪に参加してリゾットさんと兄貴の美麗絵見るでしょ?するとね不思議、また燃え上がるんですよ・・・。こういうのかけたらいいな、って思いますが難しいです。ちくせう。