Due-V-

□CountDown
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一枚の書類が机の隅に置かれている。標的の名前などが事細かに記載されたそれを読み、調べ上げた相手は恐らく時刻きっかりに殺せるように出掛けたのだと無人の部屋を眺めた。
二つだけある窓は、カーテンを下ろされている。そのため部屋の中は薄暗い。外は昼間だというのに、此処だけ先に夜が訪れたようでもある。静かだから余計に、そう感じられた。
三時過ぎを指す腕時計を眺め、それからカーテンを開けば、中の時間も同じように動き出し、にわかに明るくなる。

視界を焼く陽光に、目を眇めた。

四度目の溜息をついて、片手に持った箱を、迷いつつ机に乗せる。その中に五つあったケーキは、今はもう残り一つだけになっていた。本来はもう少し買う予定だったが、生憎と財布の事情は厳しい。そうそう自由に使える金額は増えない。それどころか最近は減ってきてさえいた。それでも奮発し、態々駅の近くに出来て間もない、しかし客足の絶えない人気の店へ出向いたのだ。店員の少女に笑顔を見せてやれば、もしかすると六つは買えていたかもしれないが。

仕事が終わるのはそろそろで、帰ってくるのは七時過ぎと予測される。それまで何をしようか、とぐるりと物の少ない部屋を見渡した。暇潰しに買い物に行くほどの体力は既に無く(ケーキを買うために女性に混じって数十分並んでいたのだ)、気力も無い。かといって昼間寝るような怠惰な気分でもない。

取り敢えず椅子に腰掛けて、最後に残ったひとつのケーキをぼんやりと眺めた。

ひと月が始まって、八日ぶんだけ捲られたカレンダー。実は、仕事に行っている間、持ち主以外がそうしている。主に、自分が。
持っている癖に部屋の主は全くといっていいほど無頓着で、掃除はしっかり行うというのに、こういったものは何でも、あってもなくてもよいという様子だった。何時だったか、何処かで花を貰ってきて数日ほったらかしにし、からしていた気がする。そもそも男所帯で花を愛でるという趣味は無いが、流石にしなびてしまった花を捨てる姿を見て「ああまたか」と諦めと、らしいという納得感を得たのを昨日のことのように思い出す。

ふと机の片隅に、解きかけのクロスワードパズルを発見し、手持ち無沙汰に続きを始めた。九つの文字になる箇所を、じっと、穴があくほど見つめる。答えは一向に出てこず、時間だけが徒に過ぎた。気が付けば薄暗くなって、夕闇が迫っている。ケーキだけ残して自分も仕事に行くか、と名残惜しくも腰を上げると、足音が聞こえた。

珍しい。普段から足音を立てない男だというのに。余程疲れているのか、と耳を欹(そばだ)てる。

十数えて、ドアが開いた。


「よお、遅い帰りだったなリーダー。」


「これでも予定より大分速く帰って来れた。」


そんなことは分かりきっていた。挨拶変わりにひねくれた言葉を使っただけだ。


「まだ夕飯前だしな。どっか食べ行くか?」


「お前はこれから仕事だろう?」


「いいじゃねえか、そっちが速く終わったんだ。こっちがその分遅くたって構わ無ェだろ。」


不条理な屁理屈を述べると、仏頂面が僅かに変化する。苦笑したらしい。


「そう遠出は出来ないからな、近場で済ませよう。」


「了解だ。たまには話が分かるじゃねーか。」


「そのケーキに免じよう。」


見かけによらず、甘いものに目がない。買ってきて心底良かったと思うが、菓子に負けるのでは些か不名誉だ。それでも二人で食事に行けるということで満足して、勢い良くドアを開ける。慌ただしい等の言葉を吐く男に、緩やかに唇を吊り上げてみせた。


end.





あとがき

最近波紋戦士ばかりだったので。ちゃんと暗チ愛してますよアピールのためにも更新させたいと思い、久々にのっけました。リーダー登場少ないですね。もっと増やしたいです。

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