Due-V-

□良い子でない君へ
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朝から妙な寒気を感じて起き上がれば、上げたブラインドの向こうには白白とした地面が見えていた。否、粉砂糖を振りかけたように一面が白い。
寒さの理由に納得し、これはブランケット一枚では到底凌げないという結論が導き出された。


***


各人が思うようにくつろぐリビングの先客は、少しだけ開けた窓から侵入したらしい猫だった。雪と同じ色の毛並みをソファに埋め、丸くなっている。その背中を撫でつつ、リゾットは珈琲がドリップされるのを待った。
漂う仄苦い香りに瞼を下ろし、電子音で目を開く。

砂糖は入れないままに、ミルクだけ入れて飲んでいるとどたばたと足音が聞こえた。


「リーダー、今日は珍しくアジトにいるんだね。」


盛大な音を立てて階段から飛び降りてきたメローネが言う。どこかへ出かけるのだろう。服装はいつものものではない。
肯けば、普段は付けているマスクに覆われていない、されど片方だけ伸ばした髪に隠された瞳までもにんまりと細めた。
にやにや、と締まりなく口元は緩んでいる。


「じゃあ良い子のリーダーには、きっとサンタから贈り物があるよ。」


ブォン・ナターレ、と付けたし、颯爽とドアを出ていく。ひらりと一度だけ揺れた手を見送り、それが引っ込んでからリゾットは猫を見下ろした。何時の間にか、彼だか彼女だか知らない気紛れな毛並みは窓の向こうに華麗に身を翻している。
飲みかけだった珈琲をぐいと呷って、洗ってから着替えた。


***


カレンダーを見るまでさっぱり思い出せていなかったが、どうも今日がイヴであることを知り、リゾットは腕を組んだ。この年齢になってまでまさかサンタが来るとは思っていない。
そもそも職業といっていいのか知らないが、イイ子と呼ばれるような仕事はしていない。

自虐的になりつつも、冷蔵庫の中身は少ないので買出しに出掛けた。遅めの昼食をアジトに戻ってから作っていると、どかどかとメンバーが戻ってくる。互いに何か示し合わせたように笑って、リゾットの名を呼んだ。


「去年も、その前もプレゼント貰うかわりに仕事に行ってたリーダーに、俺達からのプレゼントだ。」


差し出されたのは、年代物のワインだ。さぞかし高級だったろう。その包装から見ても分かる。
リゾットは目を細めて、それから苦笑した。


「一人では飲みきれないな。各人、暇なようだから仕事をやろう。」


紅玉色の瞳が珍しく、揶揄うように光る。


「テーブルの上を片付けて人数分のグラスと皿を出せ。」


「si」と全員が返事した。


***


結局、一晩で一瓶と言わず、テーブルに並べられたボトルは空になっていた。突っ伏し、寝息を立てているメンバーの上にブランケットをかけてやって、自分の部屋に戻った。

その枕元に、朝に見かけた猫が丸くなって独占している。下敷きになってしまっているのは、どうも靴下のようだ。
中からはみ出しているのは、新調されたナイフだった。

これほど物騒で、そして彼に相応しい贈り物は無い。
きっとおくりつけたのは、ソリに乗ってトナカイと一緒に夜空を飛び回り、良い子の元へプレゼントを置くサンタではなかろうとリゾットは小さく笑みを浮かべた。
誰にも聞こえてはいないが礼を言い、引き出しの中に仕舞う。

明日は仕事が入っている。早速使わせてもらおう、とひとりごち、彼は布団に潜り込んだ。


end.



あとがき

短いですが、暗チ書きたくなって。彼らのクリスマスは豪華じゃないけど温かい。でも結局は路地裏独特の血腥さも漂うとそう思う今日このごろ。

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