Due-V-
□Let's Smile!
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誰かが感情が抜け落ちているといった。また誰かは鉄面皮だといった。
そして、誰かが言った。
本当にそうなのか、と。
***
「というわけでリーダーを笑わせてみようと思ったんだ。」
「どっから“というわけで”なのか分からんが。」
ソファに腰掛けているほぼ全裸の男にギアッチョはこめかみを引き攣らせる。朝っぱらから奇行に走るのは最早慣れたことだ(慣れたいとは微塵にも思ってなかったが)。
彼の目の前に腰を下ろし、朝食後のエスプレッソを飲み干したメローネは、芝居がかった仕草で肩を竦める。
「ほら、我らがリーダーは先週からずっと部屋で缶詰状態だろう?たぶんロクに睡眠もとっていない。食事も然りだ。表情筋も固くなって当然じゃあないか。益々無表情に拍車がかかってるに違いない。肩を揉もうと背後から近づいたら多分メタリカされるし。」
「んなことされんのはオメーぐらいだろ・・・。」
「眠いときは機嫌悪いからな。だが、何時までも無表情じゃあ職場のテンションが下がらない?」
「無駄に高いくせになにを言ってやがる。凍らすぞ。」
臨戦態勢に入ったギアッチョに別の声がかかった。
「リビング朝から凍らすなよ、凍らせるならそいつだけにしてくれ。」
「・・・・うるさい。」
二階から降りてきてホルマジオとイルーゾォが言う。益々眉間に皺が寄ったギアッチョに苦笑しつつ、ホルマジオは少し遅い朝食を皿に乗せた。
スープを啜り、メローネを見る。
「あいつを笑顔にさせるのは、“あ、コレ絶対にフラレる”って女に告白して合格もらうのと同じくらいレベル高いぜ?」
「流石は経験者、重みのある発言だ。」
「・・・・・・馬鹿なだけだろ。」
両手でカップを持って冷ましながら、ぼそりと呟く。イルーゾォの言葉にやや傷ついた顔をしたが、直ぐ様取り直した。
「そこんじょそこらのギャグやドラマじゃ笑わないことは保証できるな。くすぐるのも駄目だ。」
「メタリカだな。」
予想できて、一同はここで溜息をついた。
「じゃあどうやってあの鉄仮面を引き剥がすんだよ?」
「俺に聞くなよメローネ!提案したのはテメエだろうが!!」
「いちいち怒鳴るなよ、気が短いなァ。」
「ストップストップ、喧嘩するな。」
一向にまとまらず、しかも提案者も丸なげ状態なのでどうしようもない。どうしてこうなった、と思わずに入られない。
これも、いつものことだ。
「ペッシとプロシュートは?」
「朝のメルカートで買い物してる・・・朝飯作ってたら冷蔵庫がカラッケツになったんだとよ。」
「お戻りになったぜ。」
言葉通り、ドアが開いて二人が何事かとメンバーを見た。野菜などを冷蔵庫の中に入れるように言ったあと、どかりとプロシュートはソファに腰掛ける。
「なんの会議だ?」
「一大任務だ、それも高難易度のな。」
「標的は?」
「リーダー。」
一瞬秀麗な顔が顰められ、意味を悟ったのだろう、直ぐににんまりと唇が弧を描いた。
「いいぜ、乗った。最近暇してたんだ、丁度いい。」
「でも相当の難しさだぜ?プロシュートってなんか手品とか出来たっけ?」
「そんなんであいつが笑うかよ、この阿呆ゥ。サーカス見て笑顔になるんだったら、もう少し社交性に満ちてるぜ。」
「・・・お前たちは何を話してるんだ?」
部屋から数日ぶりに顔をのぞかせ、今回の話の的になっている人物が低く言った。視線を浴び、目を瞬かせる。
「いやあ、リーダー。目の下の隈がすごいことになってるよ。ヴィジュアル系バンドメイクみたい。」
「そうか、原因はお前の書類の訂正なんだが。」
「あはは・・・目が据わってるよ?」
無言で見下ろし、次の瞬間にメローネは机に突っ伏した。呆れ果て、ホルマジオが洗面台へと運んでいく。テーブルに散らばった剃刀と血を掃除し、ペッシは朝食を取りに引っ込んだ。
足を組み替え、プロシュートが口を開く。
「よォ、リゾット。相変わらずの仏頂面だな。」
「・・・・それがどうかしたか?」
「たまには笑えよ。」
はあ、と盛大なため息がつかれた。
「行き成り何を言い出すかと思えばそんなことか・・・。」
ルッコラとトマトのサラダを飲み込み、リゾットは言う。そんなこと、で済まされて気が済まないらしい。復活したメローネが抗議の悲鳴を上げた。
「重要なことじゃあないか!笑顔は大切だ、リーダー!」
「へらへら笑うのは好きじゃない。」
「そもそも笑ってねえから心配すんな。」
やや納得いかなそうに憮然とする。
その額を軽く指で弾き、ホルマジオは言った。
「まあ、表に出てないだけで結構笑ったりしてんだろ?」
「・・・さあな。」
そう返し、食事を再開させる。ぞろぞろと解散するメンバーが、いつものように笑ったり軽く殴ったりするのを見つめ、目を細める。
ギアッチョはそれを目にして呟いた。
「・・・あんた、そういうふうに笑うんだな。」
答えず、リゾットはスープを一口啜った。
end.