Due-V-
□Shocking Shopping!
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平日にも関わらず、ヴェネチアの街は人で溢れていた。
雑踏を縫うようにして歩き、プロシュートはショーウィンドウを眺める。
視線の行く末が止まり、ひとつの店に定まると迷うことなく長い脚が動いた。
その二歩ほど後方からついてきていたリゾットは、「またか」と声もなく呟いてやや眉を顰める。
両手に抱えた紙袋には、有名なブランドのメーカー名が刻印してあった。ちなみに、本日5件目の服屋だ。
普段あまりそう言ったものにこだわらないリゾットからすれば、この買い物は目が眩むような代物だった。
やや気後れしながら店内に入って、プロシュートの後に従う。
「これとか、いいかもな。ただ色が・・・お、こっちなんてどうだ?」
差し出されたスーツは薄いグレーで、袖にボタンが二つほどついている。リゾットは小さく息を吐き、首を横に振った。
「いらない。」
「お前なぁ、もうちっとくれぇ着飾れよ勿体無ェ。」
唇を尖らせ、眉間に皺を寄せてプロシュートは言う。そういった表情をしても、店員や客の女性からすれば十分に魅力的なので、視線が集中していた。
「昨日、ポーカーで負けた代償としての賭け金を払わない代わりに、荷物持ちしてるだけでも十分だろう。」
「払わないつーか、払えないだよな。」
ニュアンスが異なるとばっさりと切捨てて、プロシュートは吟味した服を寄ってきた店員に渡す。
手早く会計を済ませて、二人は店を出る。持つ紙袋がまたひとつ増えた。重くないことだけが救いであった。
またちらちらと視線を動かす様子が、どことなく猫のようだという少々失礼な感想を抱きつつ、正午前で人がごった返す中を歩く。
まだ夏ではないというのに熱気によって、シャツに汗が滲んでいた。
あちこちに向けていた翡翠色の視線が、不意にリゾットの手首に移る。浅黒い肌には、飾りの類(たぐい)も腕時計すらも無かった。仕事の邪魔になる、とつけていないのだ。何せ、磁気を操るために大抵の機器は壊れてしまうので。
プロシュートは暫く見つめたあと、ショーケースに飾られている男らしいごつごつとしたデザインの時計を指差す。
「おい、あれ見てみろ。文字盤の下が歯車とか丸見えで、あんまり見ねえデザインだぜ。」
「ああ、そうだな。」
どうでもよさそうに平淡な声で相槌を打ち、リゾットは頷いた。
「色も敢えてゴールドじゃなくくすませてあるシルバーだ。文字盤のとこだけ黒で、シンプルで。」
「・・・・欲しいなら買ってくればいいだろう?」
自分の財布の中身は寂しいが、賭けに勝ったプロシュートのものは別だ。ホルマジオやソルベ辺りは泣く泣く紙幣を渡し、自棄酒をかっ食らっていたくらいだった。
リゾットの返答に、プロシュートは先程よりも深く眉間の皺を作る。
「阿呆か。あんなクソ重たい時計なんて俺がつけるわけ無ェだろーが。」
「じゃあ何だ?」
訝しがるリゾットにも聞こえるように舌打ちし、プロシュートはずかずかと店内に入った。ものの数分もしないうちに出てきて、箱を押し付ける。
疑問符を浮かべるリゾットに、彼は言った。
「オメーに似合うと思ったんだよ、馬鹿野郎がッ!」
渡されたというには些か乱暴な対応に、ぱちくりと目を瞬かせて黙り込む。焦れったいのか、プロシュートは眦を一層吊り上げた。
たっぷり十秒は間を開けて、リゾットは箱に手を伸ばす。
ずしり、と小箱に似合わない重さがあった。
開けろと促され、折角施されたラッピングを解いていく。武骨なフォルムの腕時計をつけると、サイズは恐ろしいことにぴったりだった。
機嫌が治ったらしく、薄い唇が弧を描く。
「この俺からのプレゼントだぞ、シチリアーノ。有難く使え。壊すなよ。」
「・・・・出来るだけ、心がけよう。」
「絶対に決まってンだろうが!!」
再び怒鳴られ、肩を竦める。次は昼食だ、と言って先を行く背中を、ゆっくりとした歩調でリゾットは追いかけた。
まだまだ、買い物は続くようだ。
手首を新しく飾る重みのある時計の文字盤に目を遣って、リゾットは滅多に動かさない口端をほんの僅かに持ち上げた。
「悪く無い。」
その声が聞こえるはずも無く、華奢にも見える背中は雑踏に紛れた。
end.
atogaki
最近書いてなかったのでリハビリも兼ねて。しかし上手くいかない。もっとカッコイイ兄貴を書きたいんですけどねえ・・・。