Due-V-

□君を外に連れて行く方法
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真夏の日差しは容赦なく照りつける。

それなのにブラインドを下ろされた薄暗い部屋は、まるで隔絶されてでもいるかのように暑さが感じられなかった。ひとつは冷房が入っているのと、もうひとつは酷く静かな所為かも知れない。 書類のためにキーボードを叩きながら、リゾットは氷が溶けて薄くなった珈琲を啜った。

彼の背後の扉が開いて、音がしてもリゾットは振り返らないままで作業を続けた。その精神に半ば呆れつつ、ホルマジオは運んできた昼食片手に部屋に入る。

「まさに避暑地だな、此処は。外の暑さを体験したら、一歩も出たくなくなる。」

「それは無理だな。今日も仕事はある。」

淡々と言い、リゾットは隣に置かれた昼食には目もくれないでキーボードに指を滑らせた。
何度か文章を打ち、ミスしたらしく消去してやり直す。

「・・・五日間缶詰で閉じこもってたら、仕事に出た時に立ちくらみ起こすかもしれないぜ、リゾット。」

「そんなことは」

「絶対に無いって言いきれるか?あのなぁ、お前がどんだけ凄腕の暗殺者だからって、身体の作りが他人と違うワケじゃねーだろうが。体温調節の機能までヒトサマと違うってンなら、話は別だけどよ。」

そう口にして、ブラインドを上げ、窓を開け放す。 熱気が入ってきてリゾットの頬に当たり、彼はその熱さに顔を顰めた。
直ぐに閉め、ホルマジオは「ほら見ろ」と言わんばかりの視線を向けた。

「ちょっとばかり休憩でも取って、それから暑さに慣れるために外出だ、リゾット。」

「ホルマジオ、」

「どうせ仕事は夕方だから大丈夫、とでも言いたいんだろうが。駄目だぜ、そういう言い訳は。」

文章を保存させ、それから電源を落とす。
不機嫌そうに黒い中に浮かぶピジョンブラッドが睨みつけたが、さらりと無視してホルマジオはベッドに腰掛けた。 リゾットは息を吐いて、昼食に手をつける。

「一時間。それだけだ。それ以上は、のんびりできない。」

「制限時間が厳しいな、ウチのリーダーは。ローマの休日と洒落こむことは不可能だなあ、それじゃ。」

「この暑さで南イタリアを観光か?」

「まあ、出来れば海とか行きたいけど。打ち寄せる波、輝く白い砂浜、冷えたワインと出来たての魚介料理。―――いいだろ?」

「一時間で、それは不可能だ。」

ばっさりと言い捨て、軽食を食べ終えてリゾットは残った珈琲を喉に流し込んだ。

「可能にしたいんだったら、今日の仕事を早く終わらせるしかない。」

「予定は?」

「本来だったら、二時間だ。」

「じゃあ二分で行こうぜ。」

「無茶な注文を言うな、お前は。」

カップを置き、立ち上がる。
ホルマジオもそれに倣って腰を上げた。

「途中で仕事が入らなかったら、――――海に行くのも考えてみよう。」

「Grazie,リゾット。」

「それと、」

ドアノブに手をかけて、リゾットはホルマジオを振り返った。
何だろうと首を傾げていると、彼は言う。

「ジェラートを全員分、だ。お前が払え。」

「此処が何人の野郎所帯だと思ってんだよ。」

「いいだろう、それくらい。俺の仕事を中断して、無茶を言うんだからな。それぐらい、比べて見れば可愛いものだろう?」

「しょーがねぇなァ。」

そう言葉を口にしていても、ホルマジオは苦笑して、それから頷いた。
かんかんに照りつける太陽が、少しだけ雲に隠れ、それでも蒼い空は広がっていた。

end.

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