最遊記

□桜ノ記憶
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ふと、何かを思い出した気がした。


ひらひらと舞う桜の花を眺めながら、
八戒にもらった団子を頬張る。

【花より団子】という言葉があるらしい。
さっき悟浄が言っていて、八戒に意味を聞いたら
悟浄が自分を馬鹿にしていたことが分かって少しムカついた。

でもそれはあながち間違ってはいない気がして
文句を言うにも言えなかった。


「っ!!・・・美味ぇ!!」


団子は予想以上に美味しくて、
もらった分全てを一瞬でたいらげてしまった。

団子は好きだ。
けど、花も好きだ。
花よりも団子が好き。悟浄が言ったことはハズレではない。
けどそれは桜以外の花。

桜は何故か別格。

桜を見ると、おかしくなる。
頭が狂うとか、そういう意味じゃなくて
胸の辺りが苦しくなる。

このカンジをなんて言うかなんて知らないけど、
何故か泣きたくなるから、いい物じゃないのかもしれない。
それでも桜から目が離せなくなるのは、俺がおかしくなるから?


「綺麗だよなぁ」


そう口に出したら、三蔵の顔が浮かんだ。
三蔵も綺麗だ。
顔もだけど、髪とか、身体とか、全部が綺麗だ。

前に八戒と花火を見た時に
『すぐに消えちゃうから余計綺麗に見えるんですね』
って言っていた。

桜だってそうだ。
桜の季節は短い。すぐに散ってしまうから綺麗なのかな。
それじゃぁ、三蔵も・・・?


「馬鹿猿」


聞きなれた声に呼ばれて振り向けば、真っ黒な闇に包まれた。
一瞬驚いたけど、すぐに三蔵の腕の中だと分かった。


「三蔵?どうしたの?」


普段、急に抱きしめてくれることなんてほとんどない。
だから三蔵の様子がおかしいことはすぐに分かった。


「・・・消えそうだった」


ぎゅぅっと力強く抱きしめられて、苦しい。
だけど嬉しい。


「俺、消えないよ」

「あぁ・・・。・・・綺麗だな」


三蔵は桜に視線を向けた。
それと同時に三蔵の腕の中にいるまま桜のほうを向く。


「うん。すぐに消えちゃうから、綺麗なんだって」

「・・・・」

「綺麗なものはすぐに消えちゃうんだよな。だからさ、三蔵も・・・」

「馬鹿か」


突然言葉をさえぎられ、三蔵の顔を見る。
三蔵は少しあきれたような顔をして俺の顔に手を伸ばした。
そしていつのまにか流していた涙を拭ってくれる。


「桜の木は何年も生きてる。そう簡単に枯れはしねぇ」

「そっ・・・か・・・」


安堵の息と同時にまた涙がこぼれた。


「・・・ずっとそばにいる。」


サァ、と風が吹き桜の花びらが舞う。
三蔵の声はよく聞き取れなかった。


「え?」

「・・・テメェも消えそうだろうが」

「、消えないよ。三蔵のそばにいたい」


それ以上三蔵は何も言わなかったけど、
俺を抱きしめる強さは緩めなかった。


また2人で桜を見上げる。


何かを思い出した気がした。
けどそれは胸に残ることなく、桜同様散ってゆく。

桜を見るのは切なくて桜が散るのは儚くて。
だがそれを美しいと思ってしまうのは滑稽だと苦笑する。

散り逝く桜を貴方の腕の中で眺めるのは
残酷にも幸せで、永遠にこのままで・・・と祈ってしまう。

桜の花ほど数え切れない想いを祈り
貴方の腕にそっと触れれば腕の力が強まって少し苦しい。


「三蔵、来年も一緒に桜みような」

「・・・あぁ」




忘れることの無い記憶。











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