短編書庫2

□私だけが見える
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私の家の近くに、静かで落ち着いた雰囲気のカフェがある。
そこが出来たときから、私は勉強するために足繁く通っていた。
休憩がてらコーヒーを一口。
そこで、私の視界に入ってきた一人の男性。
真っ白のふわふわな髪の毛、整った顔立ちに、黒縁眼鏡がよく似合っている。
穏やかな表情でページをめくる彼を見た途端、目が離せなくなった。
……これが一目惚れというやつか。

それからはカフェに来るたびに彼の姿を探しては、一人ひっそりと彼を眺める日々が続いた。
初めは見ているだけで満足していた私も、どんどん強欲になっていく。

どんなコーヒーが好きですか、とか。
何を読んでいるんですか、とか。
普段は何をされているんですか、とか。

話しかけたくて仕方がなくなった。
聞きたいことがたくさんあった。
あの人はどんな声で話すんだろう。どんな笑い方をするんだろう。
いきなり話しかけては変に思われるかな、なんて二の足を踏んでいたけど。

もし、また明日、彼が同じ場所に座っていたら。
明日こそ、話しかけてみよう。

心に決めて、グンと背伸びをする。
テラスもあるこのカフェは、テラス側の壁が全面ガラス張りで、外の様子がよく見えた。
もう真っ暗だ。早く帰らねば。

立ち上げり、もう一度ガラスを見る。
それで、私は気づいてしまった。
店内を映し出しているそこに、あの男の人の姿だけが、ないことを。



私だけが見える

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