短編書庫
□起きて。
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朝。今日もいつもと変わらず少し早めに起きて、身支度を整えて、朝ごはんも作って。
お皿に持った目玉焼きやらトーストを食卓の上に並べてから、いつものようにお寝坊さんな彼の部屋へ。
「朝だよーっ。半兵衛早く起きて!!」
シャーっとカーテンを勢いよく開けると、眩しいくらいの日光が、明るく部屋を照らす。
それも気にならないのか、身じろぎせず半兵衛は眠りこけている。
まったく人には朝ごはん作らせておいて、さらに起こしに来てもらっていると言うのに自分は呑気に寝坊とは何て奴だ。
「はんべ、今日は上手に目玉焼きが焼けたんだよ?冷めたら不味いんだからね知らないよー?!」
少し音量を上げてみるが、反応する兆しすら見えない。だんだん悲しくなってきて、少し乱暴に彼の肩を掴んで揺する。
「ねぇ、もう遅刻しちゃうよ?優等生な半兵衛が学校遅刻するなんて、あり得ないよね?」
目の奥がつんとして、なんだか声も詰まってきて、それでも一生懸命に彼の肩を揺する。
それでも、目を覚ますどころかピクリとも動かない。
「ねぇ・・・半兵衛・・・」
私は彼の寝顔をゆらゆら揺れる視界で覗き込む。
真っ白で体温の感じられない肌
もう二度と心音を刻むことのない心臓
硬くなり、後は朽ち果てるだけの身体
そして、死の直前に吐いただろうシーツに広がる紅
あの日から、半兵衛が死んだその日から、何も変わらず、そのままだというのに。
彼は、彼の身体だけは、時が過ぎるとともに朽ちて、消えていく。
頭では理解しているつもりでも、受け入れようと思っていても。
ただ眠っているだけのような彼の顔を見るたびに、私の身体のどこかが、それを拒否して、一歩も前に進めない。
嫌、嫌よ。半兵衛は私が寂しがり屋だって知っているでしょ?
だから、置いていったりしないよね?
きっと、明日になったら何事もなかったようにむっくり起き上がって、日常が帰ってくるに違いない。
どんなに強く彼の身体を抱きしめても、彼のかつての温もりを感じられない。
「ねぇ半兵衛、私寂しいんだよ、だから・・・・」
起きて。