短編書庫

□夢はお嫁さん
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『ちょーそかべもとちかです。5さいです。しょーらいのゆめは、蒼ちゃんのおよめさんになることです』

私はそれを見た瞬間、危うく飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。
「やばい、これはやばい!ウケるーー!」
「バ、馬鹿野郎!ガキの頃の話だろうが!」
今日は休日。暇で何もすることがなかったので適当に幼馴染みである元親の部屋を荒らしていたら、ビデオが数本発掘された。
本人も何が映っているのかはわからないというので、いざ、二人で鑑賞タイム。
そしたら元親の幼稚園の頃という、とてもすばらしい映像を見ることができたのだ。
そして今すぐにでも映像を止めたがっている元親が、私の持っているリモコンに手を伸ばすが、私はリモコンを死守。
すると、ふわふわのドレスを着た元親がにぱっと笑っている映像に変わり、隣にいるなれの果て(ひどい)と見比べて、また笑いが止まらなくなった。

「あーもう見せんじゃなかった・・・」
結局最後まで見続け、ご満悦の私とは対照的な、元親の顔。
「ホントこの頃は女の子みたいだったよね」
姫、とあだ名されるくらい女の子っぽかった。どちらかというとほかの男子とチャンバラごっこしている私が男の子みたいだった。
そんな姫も12,3年たった今は身長も馬鹿みたいに伸びて、たくましくなって、あの頃の姫は見る影もない。
「そっかー、もとちかくんの夢は蒼ちゃんのお嫁さんになることかー」
「だから小せェ頃の話だっつってんだろーが!!本気にすんじゃねーよ」
慌てた元親があまりにも強く言うから、私は何も言えなくなってしまう。
そりゃ、小さい頃の話だってことは、わかってるけどさ。

「・・・今は」
「え?」
いつの間にか私に背を向けた元親は唸るような低い声を出す。
やがて、独り言のように、ポソリと言った。


「蒼の・・・お婿さんになりてェ」





「・・・アンタ、もっとほかの言い方があるでしょ。お婿さんて」



私はからからと笑う。でも、元親が背を向けていてくれて良かったと思う。
今の私は、顔も真っ赤だし、嬉しくて泣きそうなのを堪えてるし、きっと酷い顔だろうから。
見られなくて、良かった。

「まあ、それもそうだな」

静かな部屋の中に、元親の声が溶けて消えた。




夢はお嫁さん

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