短編書庫

□ずっと一緒に、花見をしよう
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桜の季節になった。小田原の空を桃色で埋め尽くすほどの桜が咲き乱れている。
私は、それを見上げ背伸びをした。
「いつ見ても綺麗だけど・・・やっぱ小太郎と見たかったなー・・・」
今彼は何だか大変な任務に向かっているらしい。内容は教えてくれなかったけど、しばらくは帰れないといっていた。
毎年小太郎としていた花見と称した桜の木の下でのお昼寝も、一人だと何だか味気ない。
でも、でもね。小太郎と約束したんだ。
「なるべく早く帰って一緒に花見をする」って。
絶対よ、忘れないでね、と小指を彼に差し出すと、少し口元を緩めながら小指を絡ませてくれた。
だから私、ずっと桜の木の下で待ってるの。



あれから何年経っただろう、徳川様が天下を掌握しこれから江戸幕府なるものが始まるとか。
北条氏は残念ながら滅んでしまったけれど、小田原の桜は、こうして今年も見事に咲いた。
なのに、肝心の小太郎が全く帰ってこない。
誰かが伝説の忍は死んだとか言ってるけど、そんなの信じないわ。
だって指切りしたんだもの、絶対帰ってくるよね?約束、守ってくれるよね?


その時、ふわりと優しい風が、私と桜の間を吹き抜けていった。
暖かく、優しく包まれるような風。

ほら、言ったでしょ?
彼は約束を破ったりしない。


「お帰り、小太郎」


その風は、答えるように桜を散らした。










穏やかな晴れたある春の日のこと。花見をしようと桜の木に集まった人々は驚いたそうな。
小田原でも一番立派な桜の木の下に、男女が寄り添うように死んでいたとさ。
女は外傷もなく、男は血まみれで目元を隠していたが、どちらも穏やかな死に顔だったらしいよ。
まるで再会を喜んでいるかのように、固く手をつないだままーー。



ずっと一緒に、花見をしよう

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