短編書庫

□迎えに来た。
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そうだ、蒼は幼いころから時間にだらしがなかった。
約束に遅れてくるのは当たり前、今まででは最長5,6時間待たされたこともあった。
だから、いつからか我が毎回、迎えに行くようになったのだ。電車を使い、二駅先の彼女の家へ。
それでも「ごめんもうちょっと待って!」と1時間以上待たされたり、ひどいときは「今起きた」と、インターホン越しに眠そうに言っていたこともあった。
とにかく、我はどうやっても蒼に待たされるのだ。
我は短気な方であるが、蒼のことは大体待てていた。
しかし、それは今まで迎えに行っていたからであって。
今ここで待ち続ける以上、いつ来るか、と気が気じゃない。
我のもとにたどり着く前にほかの男にたぶらかされてはいないだろうか?
『快速列車が2番ホームに参ります。なおこの列車には、ご乗車にはなれませんのでーーー』
聞きなれたアナウンス。――そうか。
今回も我が迎えに行けば良い事―――。


「 蒼 」


我は蒼の背中を押し、2番ホームへと突き落とした。




「え・・・・・?!」


全身がずきずきと鈍く痛む。
眩しすぎるライトと聞きなれた車輪のきしむ音があっという間に近づいてくる。

世界が暗転する前、脳裏に焼き付いた光景は―――


『   蒼   』


優しげな声と、私を突き落とし穏やかに笑っている・・・三日前に事故死したはずの元就の姿だった。




迎えに来た。

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