短編書庫

□月明かりの夜に
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燃え盛る本能寺。初めこそ突然のことに驚き立ちすくんでいたが、信長様がすでに打たれたと知ると、愛刀を持って寝巻のまま飛び出した。
星降るような夜空の元、あっけないほどすぐに見つかった彼と、木々茂る森の中で対峙していた。
「何故謀反など起こしたのですか?!光秀様?!」
私の叫ぶような問いに彼ーー明智光秀はクスクスと笑った。
「そうですねぇ・・・信長公の血が見てみたかったから、と言っておきましょうか」
「そんな理由で・・・」
私と光秀様は信長様公認の恋仲だった。毎日くっついていて、こんな日々が続くものと思っていた。なのに・・・。
「私は信長様に仕える身。だから、貴方は、仇となる。だから・・・」
貴方を、殺さなきゃ。
かすかに震える両手で刀を構える。同じように彼も鎌を構えた。
今ある力を振り絞り刀を振り回すが、すぐに受け止められてしまう。彼の顔が私の耳のすぐ横に来たとき、彼は確かにこう囁いた。

「さぁ殺しなさい。愛する貴女に殺されるなら本望です。」

「あ・・・・う・・・・」
だらりと鎌を持つ手を下げ、臨戦態勢を解いた光秀様。そんな彼を見つめ、唖然と立ちすくむ蒼。
しばらく見つめ合っていた二人の静寂を破ったのは慌ただしい足音だった。
「明智光秀覚悟おおお!!」
織田軍の生き残りが追いついてきてしまったらしい、彼らはまっすぐ光秀に斬りかかっていく。
再び鎌を持ち上げた光秀の目の前に飛び出したのはーーー

「だめ・・・・っ」

一瞬にして光秀の目の前が赤く染まる。真っ赤に染まった愛しい人の身体は、地面に崩れ落ちていった。
・・・何故、かばったりしたのです。私は・・・・
気がつけば、地面に伏している死体が増えていた。しかし光秀はそれらには目もくれず、蒼を優しく抱き上げると森の奥深くへと歩き出した。


「蒼・・・ほら。私を殺してみなさい・・・私は貴女の敵となったのでしょう・・・?」
静かに彼女に語りかける、しかし返事が聞けるわけがない。
光秀は近くの大樹の根元に座り、彼女の身体を抱き寄せる。
そして懐から小刀を取り出すと、蒼の手に握らせ、ひと思いに己の心臓を貫いた。

寄り添うように横たわる二人の屍を、月光だけが優しく照らし出していた。


月明かりの夜に

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