短編書庫

□メルト♪
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帰りのHR、窓の外を見ると土砂降りの雨が降っていた。天気予報では小雨程度っていっていたのに。
でも大丈夫、私には常備している折り畳み傘がある(えっへん)。
私の友人はみんな部活で忙しいので、いつも帰路は一人。玄関先で傘を開くと、傘もささずに雨の中に飛び出していく強者が私の横を通り過ぎた。
すげー、とか思いつつよく見ると、クラスメートの石田くんじゃあありませんか。
私はあわてて彼を追いかけ傘を差し出した。
「ちょ、石田くん風邪引くよ?!」
ちらりを私を見て、すぐに前を向いてしまう。そして、一言まるで独り言のように呟いた。
「雨は嫌いだ」
「へ?」
話を聞くと、どうやら彼の敬愛する豊臣先輩と竹中先輩がこの学園を去ったのもこんな雨の日だったという。
「あのお方は、私の全てだった・・・それなのに・・・家康は・・・・!!!」
徳川家康。
石田くんと生徒会に所属し、先の先輩二人を学園から追い出した張本人。
「私は家康を許さない・・・!!!!」
「そっか・・・でもさ、」
雨はいつか止む。そしたら太陽も元通りに出るし、虹だって見えるかもしれない。
「辛い事ばっかじゃないよ。いいことだってあるよ、こんな雨の日でも。」
なんとなく思ったことを口走ってしまいはっとする。彼の無愛想さと沸点の低さは有名で、さっきから一言も発しない彼はもしかして怒っているのでは・・・?
「そうか」
また彼は独り言のように呟き、私の持っていた傘を奪取し代わりにさしてくれた。
そこで私たちは相合傘をしているのだと今更ながら気づき彼のほうを見れなくなった。

それから会話もなく駅についてしまう。石田くんは電車通学だが、私は徒歩。
「じ・・・じゃあ・・・また明日」
スタスタと去っていく彼から返事はないんだろうと思っていたのに、くるりと振り返る。その口元は少しだけ、でも確かに緩んでいて。
「・・・感謝する」
驚きなのか何なのか、彼が見えなくなってもその場からしばらく動けなかった。
彼の浮かべた微笑みと、心なしか優しげな声が、頭から離れない。
顔が真っ赤なのはよく分かっている。
あぁ、この感情は・・・。


 こ い に お
         ち
           る 音 が し た

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