短編書庫

□はじめのいっぽ
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夜の畑巡回が終わり、幸せな気持ちで城に帰り、政宗の部屋の前を通った小十郎。
「Shit・・・!!」
刃が交わる音と、小さな政宗の舌打ちが聞こえて、障子を開け放った。
「政宗様っ!!」
白小袖の政宗と対峙しているのは忍装束を纏った侵入者。
それに小十郎は刀を抜き応戦した。小十郎の素早い突きを忍は避けきれず、顔を覆っていた布が裂け、はらりと床に落ちる。
その顔は少し幼げな、女の顔だった。
「くのいちか・・・・!!」
そのくのいちは小さく舌打ちをして、しゅんっと一瞬で消えた。


それからほぼ毎日、くのいちはやってきた。なぜかわざと大きな音を立てて登場し、しかも標的を小十郎に変えたのだ。
「てめェ、何が目的だ!!」
「ん〜・・・アンサツ?」
「ふざけやがって・・・!!」
彼女の飄々とした態度に気分を逆撫でされ、苛立ちに任せて剣劇を繰り出す。
しかしあっさりと交わし、くのいちは森の奥へと消えていくのだった。


そして、一月もたたないうちのこと。いつものように鎬を削っている途中に政宗がやってきた。
そして攻撃の手を止めたくのいちに問う。
「女、アンタの名前は?」
「・・・蒼」
あっさりと自分の名前を明かした彼女に小十郎は少しだけ目を見開く。
そんな小十郎を一瞥し、政宗は言った。
「Hey蒼、伊達軍に入らねえか」
突然すぎる彼の提案に、思わず小十郎は刀を落としてしまった。しかし蒼はいつもの様子だ。
「少々アンタのことを調べさせてもらった。アンタ、俺の暗殺に失敗して追われているらしいな」
小さく頷く蒼。政宗は彼女の耳元に唇を寄せ、小十郎には聞こえない声で囁いた。
「それと、一目惚れか?小十郎は頭堅ェから大変だぜ?」
蒼はそれに吹き出し、顔を真っ赤にさせた。ただ一人状況がつかめない小十郎は首を傾げている。
「はじめのいっぽ、ってとこだな。Come on 蒼!!歓迎するぜ」
「はいっ!!」
この場から去っていく政宗に続き、蒼もついて行く。小十郎は慌てて声をかけた。
「ま、政宗様!!いくらくのいちとはいえ、そのような小娘を・・・・」
そんなことを言い出す小十郎を呆れたように見返そうと振り向く。が、行動は忍の方が早いもので。
「小娘じゃないしーーー!!!」
と叫びながら無数の苦無を乱れ撃つ。それをみて政宗はため息をついた。
素直じゃないくのいちと、堅物な竜の右目。
くのいちの恋路が実るのはいつのことやら。



はじめのいっぽ

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