短編書庫

□花嫁修業しましょ
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今日、彼女である蒼のクラスでは調理実習があったらしく、調理室の前を通ると甘い匂いが漂ってきた。

だが。

「・・・・・・・」
目の前に蒼が俺に差し出しているのは・・・黒い塊。
「ちょっと焦げちゃったけど・・・味は大丈夫!多分!」
いや多分って。どこから見てもアウトだろ。と突っ込みたくなるのを抑える。
「ふん、それで味が良いなどとは到底思えぬがな。甘味一つ作れぬなど、貴様は真に女子か?」
偶然通りかかった毛利が辛辣な言葉を浴びせ、嘲笑し去っていく。
蒼は今にも泣き出しそうなほどに顔をくしゃくしゃにした。
・・・女の涙は見たくねぇ。それが惚れた女だったら、なおさら。
俺は心を決め、黒い塊を口の中に放り込んだ。蒼は一瞬目を見開く。
しかしすぐに緊張した面持ちで俺を見つめている。
「どうですか・・・・?」



それから俺の記憶はぷっつり途切れていて、気がつけば保健室のベッドで寝ていた。
心配そうに顔をのぞき込んでくる蒼を見て何となく状況は理解できたが。
「元親、大丈夫・・・?」
ごめんね、ごめんねと呟いていた蒼は、とうとう泣き出してしまった。
俺は慌てて起き上がり、彼女の涙を拭ってやる。
「気にすんなって!俺は大丈夫だからよォ。料理なんざ慣れだしもっと美味ェモン食わせてくれよ!な?」
と言った途端、蒼の顔が真っ赤になる。何かまずいことを言ってしまったかとさらに慌てるが、蒼は小さくこう言った。
「それって・・・プロポーズ・・・?」
「え・・・・あ。」
思わず俺も赤面してしまった。




花嫁修業しましょ

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