短編書庫

□止まらない、止まれない
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「それでよぉ、そん時蒼がなーー」
「ええい鬱陶しい!いつまで話しておるのだ!」
目の前で楽しそうに先日できた恋人ー蒼のことを話すのは長曾我部。この莫迦から我は友人と認識されているらしく、休み時間には延々と惚気話を聞かされる。
もううんざりしている。惚気話が元々好きではない、ということに加え。
我は、蒼を。
「貴様の話からして、仲は随分良好のようだな」
「おぅよ!!この前なんかなーー」
ああ、墓穴を掘った。余計なことを言ってしまったせいで惚気がまた延々と続く。
もう、この感情を抑えるので精いっぱいだというのに。



放課後、廊下をうろうろしている蒼に偶然出くわした。
「ぁ、毛利君!元親知らない?」
「・・・知らぬ」
「そっか・・・せっかく一緒に帰る約束したのに・・・」
少しだけ頬を膨らませる彼女に我はまた愚かな質問をしてしまった。
「蒼は今、幸せか?」
「・・・うん。すっごい幸せ」
彼女の笑顔を見て、我の何かが音を立てて崩れていくのを、冷静な頭の片隅で聞いた。


蒼side

靴箱に『放課後教室で待っています』という差出人不明の手紙が入っていた。
だから用事を済ませて教室へと向かう。ドアを開けた瞬間、信じられない光景が飛び込んできた。
教室の床に広がる紅い血溜まり。底に沈む愛しい人の体。
血濡れのナイフを持ち、冷たく彼を見下すーー毛利君。
私はその場から動けない。
「な・・・・なんで・・・・?」
私にやっと気付いたのかこちらを向いた彼。その頬には返り血が付いている。
「何故、だと?簡単よ」
光を失った瞳に私を映し、口角を上げ毛利君は凛と言い放つ。
「そなたを愛しているからよ。」
ゆっくりと私のもとに近づいてくる彼。
私はただ彼を怯えた瞳で見上げるだけ。
嗚呼、彼はもう目の前に。


止まらない、止まれない

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