冬の海水浴

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 青峰SIDE






「………ッ青峰っち、」





俯いて座ってたら、いま一番聞きたくなかった声が聞こえた

話す気なんてなる筈なくて無視

聞こえた声は、いつもはバカみてーに明るい声なのになにかを決めたみてーに重い声だ

次に言うことなんて簡単に想像できる

無性に耳を塞ぎたくなった


蒼空の笑顔が急になぜか頭に浮かぶ





「返事したくないなら黙って聞いてほしいッス、俺は勝手に話すから。…俺、」

「うるせぇっ!!!!」

「今回だけはもう我慢できないんス!!俺は蒼空っちが好きッス!!!愛してんスよ!!青峰っちはどうなんスか!?ッ青峰っちも好きなんじゃないのかよ!!?」





雨が降りだした

胸ぐらを掴まれて無理矢理立たされる

目の前には肩で息してる黄瀬

雨か涙かは分かんねーけど、黄瀬の頬には数えきれないくらい透明な水が流れてる

練習着が雨を吸ってなんとなく重かった

また蒼空の笑顔が頭に浮かぶ

でもその笑顔は俺に向けられてたのじゃなくてさっきの黄瀬に向けてた笑顔


冷えていく手足とは反対に、頭は極端に熱を持ってく

気付いたときには口が開いてた





「お前に、っお前になにが分かんだよ!!!」

「分かんねーよ!!蒼空っちが好きなくせに散々傷付けて!!!分かりたくもねーに決まってんだろ!!!!!俺はずっと我慢してた!!蒼空っちの幸せそうな顔見るだけで俺は幸せだったから!!でももういいんス!俺が、っ俺が蒼空っちを幸せにする!!!!!」

「!!テメェ、」

「っ!!!!」


「大輝くん!!涼太くん!!!」





黄瀬の言葉全部にムカついて、思いっきり頬を殴ってやった

その衝撃で黄瀬は後ろに尻餅つく

俯いてて表情は見えねー


次の瞬間聞こえた声

聞きたくて、でも今はとりあえず聞きたくなかった

蒼空は走ってきて黄瀬に駆け寄る

それから殴られて赤くなってるであろう頬を手で触れて声を掛けてた

そんで、その反対の手を握り締めたかと思ったら急に立ち上がって俺と向き合う形に

また耳を塞ぎたくなる





「なんで涼太くんを殴ったの!!?理由はあったかもしれない、けど暴力なんて………!!!」





なにも、すべてを分かってほしいなんてことは考えてなかった

けど黄瀬を庇って、俺だけを悪と決めつけたこと

蒼空の顔が黄瀬への心配だけで染まってたこと

怒りを通り越して俺も泣きそうになる

気が付いたときにはもう全部遅かった





「っんだよ、どいつもこいつも!!!なんだよ尻軽女!!?今度はモデルさんにでも色目使ってんのか?!いい加減うぜーんだよ!!!!仕方なく弁当も食ってやってたけどもう一生食いたくねーよ、あんなもん!!!お前なんて、っお前なんて必要ねーんだよ!!!!!!」

「だ、いき、くん…………」





止まれよ俺の口

これ以上やめてくれ


尻軽女なんて思ったことねー

弁当だって食べるのが毎日楽しみだった

俺にはお前しか必要ねーよ


思ったことすらねー嘘が次々と口から出てくる


目の前にはいつもと同じように泣きそうな顔してる蒼空

この表情だろ、俺が見たかったのは?

でもなんでこんなに苦しいんだよ、泣きそうなんだよ

あんな表情にしたのは俺

させてきたのは俺

苦しい痛い苦しい

異常に膝が震えた

頭が灰色がかる


蒼空が俺以上に身体に震わせながら口を開いた





「…き、気がつかなくてごめんねっ、わたし、もうあっ青峰くんに近づかないから、!今まで不快な思いさせて、迷惑かけて、ごめん」

「っ!!」





目に溜めてた涙を流した蒼空


その場にいたくなくなって、棒みてーな足を無理矢理動かせながらとりあえず走る

頭に浮かんだのは、蒼空の初めて見た涙だった

































反転世界

(馬鹿なことをしてたんだと今更ながら気付かされた)











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