冬の海水浴
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「蒼空っち!!!」
「あ、涼太くん!」
3時間目の休み時間
私は、国語係(別名国語教師のパシり)ってやつで、前の授業に使った教材を国語準備室に運んでた
厚さは普通の教科書とかと変わらないんだけど、クラス全員のとなれば話は別
めっちゃ重いし持ちづらい
国語係はさつきちゃんと一緒にやってる
でもさつきちゃんは征十郎くんと今日の部活の打ち合わせ中
さつきちゃんは待ってて、って言ってくれたけどそれじゃあ休み時間が終わりそうだから1人で運ぶことにしたわけだ
うーん、やっぱりクラスの隆石くんあたりに手伝ってもらえば良かったかな
なんて考えてると急に声がかかった
俯いてた視線を前に向ければこちらに手を振りながら走ってくる涼太くん
手を振り返したいけど、生憎両手はふさがっております
「どうしたんスか、その荷物!!?」
「私国語係だから…」
「あー、たしかに今古典の授業だから資料いるもんね。国語準備室でしょ?手伝うッス!」
「え、いいよ…!」
「ほーら!たまには頼って頼って!」
「あっ!!」
涼太くんは私の手からほとんどの資料を持って、軽やかに国語準備室に歩いていく
私の手にはあっても10冊くらいしかない
私は慌てて少し離れた涼太くんを追う
「ちょっ、いいよ!次授業もあるし…!」
「だからいいって、これくらい!朝飯前ッスから!」
「じゃあせめて半分こにしよう!」
「うーん、こんな重いのを蒼空っちに持たせるなんて何考えてんスかね、あのバーコード………」
「え、聞いてくれてる?あとあれはバーコードじゃなくて完全なる河童だよ」
「そこはフォローするところじゃないんスか?」
「フォローのしようがないよ、あの頭は」
「ぷっ!!たしかにそうッスね!」
いつのまにか横に並んでる涼太くんと私
合わしてくれる歩幅に、涼太くんの優しさが伝わってきてなんだかあったかくなった
「やっぱり男の子と女の子って違うんだね。重かった資料をそんなに簡単に持っちゃうんだもん」
「当たり前ッスよ!てか現役バスケ部なんスから、それで女子に負けるとか恥ずかしい以前に赤司っちあたりに殺されるッス」
「あー……、確かに征十郎くんならあり得そうだね」
「"あり得そう"じゃなくて"絶対"、ッスよ」
「ははっ!そうだね!」
「めっちゃいい笑顔で『負けたの、黄瀬……?』って鋏シャキシャキしながら言われるんスよ!!」
「征十郎くんの笑顔は可愛いけど、めっちゃ怖いんだろうね」
「魔王降臨ッスよ!!」
「これ聞かれたら、征十郎くんに同じようなことされそう」
「!!………よし、周りにはいないッスね…」
「あ、」
「!!?」
「冗談だよ!…あはは!」
「蒼空っち!!!!」
私が前を向きながら何か見つけたような声を出せば、めっちゃキョロキョロする涼太くん
それを見て笑えば、涼太くんはほんのり顔を赤くした
私はそんな涼太くんにまた笑う
「……蒼空っちも黒子っちと一緒でサドッスよね」
「?私はまぁ否定しないけど、テツってサドかなぁ……?」
「黒子っちは蒼空っちといる時は別人ッスから」
「…うーん、分かんないなあ」
「なら黒子っちは相当の役者ッス。……あっ、あの!」
「?急に畏まってどうしたの?」
「くっ…黒子っちって蒼空っちのこと好きだと思うんスけど、俺……!」
「テツが?」
「っうん!」
「……テツは違うよ」
「、え?」
「テツは昔から一緒にいるから家族みたいなもの。全部お互い分かってて、友達以上恋人未満ってやつでもないんだ。…ていうかテツは私のお兄ちゃん、かな。テツもアホな妹くらいしか思ってないよ」
「家族、愛…?」
「うん、まとめるとそれ!ちょっと過保護なお兄ちゃんだよ、少なくとも私にとっては!」
「じゃあ蒼空っちが黒子っちを好きになることは、まずないんスよね……?」
「私、お兄ちゃんを好きになるような危ない趣味はないから」
「っ良かった!!!!」
「え?」
「!!いや深い意味じゃないッスよ!!!そっその、もしそんな仲なら俺たちお邪魔かな、みたいな、はっはは…!」
「そ、う…?…なら気にしなくて全然そういうんじゃないから!」
「安心したッス!……あ、着いたよ、準備室」
「あ、ホントだ」
準備室に入って、いつもある場所に資料を直していく
全部直し終わって準備室から出たときにはもう休み時間の終わりかけだった
「とっても助かったよ!ありがとう、涼太くん!」
「いいって!……けど我が儘言ってお礼に1つ頼んでもいい?」
「私ができることなら!」
「…なら、これから部活の休憩時間のドリンク、蒼空っちが1番に俺に持ってきてほしいッス!」
「そんなことでいいの……?」
「"そんなこと"が俺には最上級のご褒美なんで!じゃあ俺、次移動教室だから!また後で!」
「あ、」
涼太くんは私の頭をクシャクシャしてから走っていった
次、移動教室なら言ってくれたら良かったのに…
涼太くんに少し荒く撫でられた髪を触れれば、まだ体温がほんのり残ってる気がする
チャイムの音が沈んでいた私の意識を浮かばせるまで、私は涼太くんの背中を見つめてた
あったかい世界(蒼空、ホントにごめんね…!!)
(涼太くんが手伝ってくれたし、全然いいよ!)