冬の海水浴

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「あ、おはよう、テツ!」

「おはようございます」





朝、いつも通りの時間に家を出ると、隣の家のテツもちょうど家を出たところだった

テツとは幼稚園からクラスまで一緒で、家が隣なこともあってすぐに仲良くなった


肩を並べて学校までの道のりを歩く

あ、また髪がはねてるし





「寝癖くらい直してから来なよ……」

「僕の髪に言ってください。全く直らないんないんです」

「ムカつくくらいサラサラなのに、よく分かんないや」

「どこがですか?蒼空の髪の方がサラサラですし、綺麗だと思います」

「どこがですか?」

「パクらないでください」

「ごめんって。…ほら、前向いて!直したげる」

「毎朝ありがとうございます」

「たしかに毎朝だけど、わざとじゃないよね?」

「"わざと"じゃありません。"故意"です」

「は?!」

「冗談ですよ」





小さくテツが笑った


ちょっと背伸びをしながらカバンのポケットから櫛と寝癖直し用のジェルをだしてフワフワしてる水色の髪をとぐ

ちょっとの間繰り返すとほとんど直ったからそのはねてる髪を周りの髪に絡めれば、ほとんど分からなくなった





「…はい、できあがり!」

「ジェル持ってくるなんて本格的ですね」

「毎朝寝癖付けてくる誰かさんのためにね」

「誰かさんはありがたく思ってますよ、きっと」

「そうだとありがたいな!」


「蒼空!!テツくん!!」


「あ、さつきちゃん!」

「もう!2人共朝から可愛すぎ!!」

「わっ」「きゃっ!」





私たちの後ろから急に声が聞こえて、後ろを振り向くと走るさつきちゃんがいた

次の瞬間さつきちゃんは私とテツに抱き付いて、思わず倒れそうになる

抱きつくさつきちゃんの後ろに青い影が見えた





「ふぁぁあ……、おー、はよ」

「おはようございます、桃井さん、青峰くん」

「おはよう、さつきちゃん、大輝くん!」

「もう!欠伸しながら挨拶しないの!」

「眠ぃんだから仕方ないだろ」

「毎日毎日……!!早く寝なさい!!」

「オカンか」

「お母さんに任されてます!」

「はいはい」

「…こんなところで喧嘩しないでください、視線が痛いです」





付き合ってるみたいに見えて、ちょっと心が痛む

それを見かねたのか、テツがこちらをちょっと見てから2人の間に入ってくれた

全部分かってくれてるテツに、思わず笑ってしまう





「なに笑ってるの、蒼空?」

「なんにもない!」

「んだよ気持ち悪ぃ」

「酷くない?!」

「蒼空、諦めてください」

「真顔で言わないでよ!」

「そんなテツくんも大好き!!」

「え、さつきちゃんも酷くない?」





そんな感じでいつも通り歩いてると、角を曲がった瞬間明るい黄色が見えた

私たちが見つけたのと同時くらいに私たちを見つけてくれたみたいでこっちに走ってくる





「おはようッス!」

「あ、おはよう、涼太くん!」

「おはようございます、黄瀬くん」

「また一緒に登校ッスか?俺も入れてほしいッス!」

「返事する前にもういてるじゃん、きーちゃん!」

「ほら、どっか行けって」

「ちょっ!犬扱いって酷くない?!」





大輝くんがうざったそうに、効果音を付けるならシッシッて出ると思う手の動きをする

涼太くんはなぜか私の後ろに隠れる

いや、身長的に思いっきりはみ出てるよね?





「蒼空っち、助けて……!」

「え、むっ無理だよ!」

「諦めないでほしいッス!!」

「ちょっ、こしょばい…!あっ、ははははは!!!」

「蒼空っちが助けてくれないからッスよ!!」

「それと、これとはッ、あははは!!!」

「…セクハラしてんじゃねーよ、黄瀬」

「いっだ!!!ちょっ、本気だったッスよね、今?!」

「こんな胸のねー奴にセクハラする意味が分かんねー」

「お礼言おうとしたけどやっぱやめる!!」





脇腹をこしょばしてくる涼太くんの頭に拳骨を落とした大輝くん

すごい音がしたけど、今は同情したげない

今度は私が大輝くんの背中に隠れる

いつもの優しい香りがした





「……蒼空、弁当作ってきてくれたか?」

「あ、うん!ちょっと待ってね……!」

「蒼空、僕のは教室でもらいます」

「了解!…はい、これ!ま、不味かったら、」

「返せだろ?んなことねーよ、それに不味かったらとか言い続けて2年たってるからな?つか気に入らなかったら頼んでねーし」

「あっありがとう……!」





笑顔で私の弁当を受け取ってくれた大輝くん

言葉とその笑顔で一瞬にして顔が赤くなったのが分かった

私は見られないように俯く





「……いつも思うんだけどよ、絶対テツと蒼空の髪の色間違ってるよな」

「え?」

「だってさ、蒼空の名字は氷戲で、テツの名字が黒子だろ?氷戲って水色とかそっちのイメージあるし、絶対反対だろ」

「交換しろとでも言うんですか、青峰くん?」

「それもいいけどな……、…でもやっぱ蒼空は水色も似合うと思うけど黒がいいな。俺ァ蒼空のキラキラしてる黒髪好きだしよ。テツにはもったいねーや」

「あっありがとう!」

「なら言わないでください」

「たしかに蒼空の黒髪は綺麗だよね!」

「てか青峰くん気持ち悪いです」

「あ"ぁ?」





また顔が赤くなったと思う

大輝くんがテツに言われて、一房手に取っていた私の髪から手を離す

大輝くんが好きだと言ってくれた黒髪が、笑顔で触れてくれた黒髪が急に愛おしく思えてきた


ただ嬉しくて、幸せで、この時間が続けば良いのに、なんて考えちゃう





でも神様は残酷だ





「大輝ぃ、おはよぉ!」

「おぉ、はよ」

「一緒に学校行かない?」

「いいぜ。……じゃあ先行くわ、後でな」





新しい彼女さんの肩を抱いて私たちより少し早足で先を歩いていった大輝くん


さっきまで近くにいてくれたのに

さっきまで私に笑いかけてくれてたのに


私に触れてくれてた指でほかの女の子の肩を抱いて、太陽みたいな笑顔をほかの女の子に見せて、

この光景を見る度に胸が苦しくなる


色づいていた世界が今日もまた色褪せていく気がした





























モノクロ世界

(鮮やかな青色だけがはっきりと見えた)






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