ただ手を伸ばす

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「ッ大我、テツ!!!!!!!」


「うらああああっ!!…!!!?」

「だろうな。信じていたのだよ、たとえ限界でもオマエはそれを超えて跳ぶと」

「しまっ、」

「…僕も信じてました、火神君なら跳べると。そして、それを信じた緑間君が一度ボールを下げると」

「く、黒子ォッ!!!!!」



ピ ピーーーッ



「か、勝ったっ!!!!!!!」





思わずリコ先輩と抱き合う

視界がぼやけて、そんな私を笑うリコ先輩の目にも涙が溜まってた


大我は途中恐ろしいくらいの成長を見せたと同時に、この前逢った大輝くんみたいな感じがした

ものすごく怖くて、大我じゃない別人がいるような感じ

けどテツが殴って、頭を冷やしたみたいだ

追いつこうとして、離されて、さすが秀徳で、何度も拳を握った

そんな時、順平先輩が今まで見たことないくらいの距離から3Pを決めて逆転する

必死に守って

ラスト3秒で真くんにボールが回った

限界はとっくに超えてるだろうに跳んでくれた大我

それを信じてフェイクをかけた真くん

そんな真くんを理解してたテツがスティールして、試合終了


ヘタヘタになりながらも最高の笑顔を見せてくれる先輩や大我たち

控え室に行く時、チラと見えたのは真くんが秀徳の輪から外れて外に出るところだった

負けたら誰だって悔しい

この瞬間に人は強くなることを知ってるから、見て見ぬフリをして誠凛の皆を追いかける


控え室に戻って、帰ろうと笑うリコ先輩と筋肉痛とか疲労で動けない先輩たち

思わず笑ってしまう





「先輩方、ゾンビゲームに出てきそうですね」

「ま、マジで身体がいうこときかないんだって…!!」

「そうは言っても、笑っちゃいますよ!」

「ちょ、楓!手貸せ!!!立てねえんだよ!!!」

「誰かなー、チームプレーなんていらないって言ってたのはー?」

「う゛、」

「楓!火神君は火神君が1番だと思ってるんですからやめてあげてください」

「あ、そうだねテツ…!」

「楓、俺強くなってもああならないように気をつけるよ!」

「その意気だよ、光樹くん!!」

「て、テメェら、ちょっと人が動けないからって好き勝手言いやがって…!!!」

「わー!勝つのがすべての大我が怒ったー!!」

「逃げろー!!」


「…楽しそうだな1年」

「ちょ、火神のやつがハイハイで動いてる!!!」

「早すぎじゃね!?」

「ちょ、顔と動きが怖い!!!夢に出てくるからヤメテ!!!!!」

「あ、黒子が捕まったな」

「ほら、遊んでないで出るわよ、もう!」





プロレス技をかけられてるテツを助けようとしたら私も捕まって頭をガシガシされる

そこに寛くんたちも混ざって、ワイワイしてたらリコ先輩に拳骨された

若干また涙目になってしまう

ハイハイ大我は素直にホラーだった


大我が立てないって言うからじゃんけんでおんぶする人を決めたらテツの一人負け

笑ったら、恨めしそうに見られた

会場から出るまでは先輩方が肩を貸してくださってたけど、テツがおんぶし始めて1、2歩で転けた。そりゃ盛大に

そんなこんなで大我は先輩にまた肩を借りてなんとか近くのお好み焼き屋さんに

そこでお腹いっぱいにして回復をはかろう大作戦

私と一緒に話してた土田先輩は1番最後尾にいて、大我とかほかの先輩が先に入った

その瞬間お店の中から叫び声が

気になって中を覗こうとするけど前に水戸部先輩と小金井先輩が立っていらっしゃるから全く見えない

そして先輩の間からテツが割り込むように店から出てきた

何かあったのか聞こうとした瞬間にまた先輩方の間からもう1人現れる

それはとても見知った顔だった





「え、涼くん?」

「楓ー!!!こんな所で逢うなんて、やっぱり俺たちは運命なんスよ!!!!」

「チッ、間に合わなかったか…」

「涼くんも来てたの?」

「誠凛と秀徳の試合が終わって、雨宿りがてらに寄ってたんス!」

「涼くん1人で?」

「俺そんなに寂しいやつに見えるスか!!?」

「はい、もちろんです」

「うん、黒子っちなら言うと思った!!!!先輩も一緒だから!!?」

「幸男先輩も?」

「本当は店を変えたいんですけど、カントクが乗り気ですから無理ですね。…チッ、」

「テツ、舌打ち出てるよ!?」





そんなこんなで店の中に入れば幸男先輩が目に入る

頭を下げると、プルプルと震える手をこちらに上げてくれた

そして急にハッとした表情になったかと思うと、横の席にあった幸男先輩のものであろうカバンを足元に置いて、その空いた席をまだ震えてる手で指さす先輩

一瞬理解出来なかったけど、私の席を空けてくれたんだと分かって、そこに座りに行こうとする

けれどそれは誰かの手に掴まれて止められた

その手は俊先輩のもので、思わず首をかしげる





「俊先輩?」

「!え、あ、ごめん!」

「楓、海常のこと話してるかもだから邪魔するのはよくねーし、誠凛とこ座んぞ」

「いや、そんなことないから全然気にしなくていいぜ、日向…だったか?席も足りてねーんだろ?」

「なら黒子と火神座らしてもらえ。黒子は黄瀬と仲いいし、黒子と火神はハッピーセットだろ」

「いやそれだったら俺、黒子っちと同じくらい楓と仲いいし、気にしなくていいッスよ!!」

「その前に僕こんな大型犬と仲良くなった覚えがまずないです、キャプテン。楓となんてもってのほかです」

「ほら!お店の方も困ってるし、早く席に座らないと!」

「だから、そんなに目を輝かせながら言っても説得力ねーよ、カントク!?」


「おっちゃん、2人!空いて…………ん?」


「あ、」

「黒子!??」

「真くんと和くんだ」

「楓ちゃんと逢えたのは嬉しいけど、あちゃー……」

「……っ高尾、店を変えるのだよ」

「あ、でも真ちゃん、外、嵐だけ
びゅぅううううん
ほら言った通り」

「席を離れて座れば………!!」

「ごめんな兄ちゃん、見ての通り満席で、できれば相席お願いしてんだよ……」

「…っ楓!!一緒に座るのだよ!!!」

「え、私!?」

「なんでそうなンだよ!!!??」

「ちょ、緑間っち、ずるいッスよ!!俺も一緒がいい!!!!」

「楓は誠凛のとこに決まってんだろダァホ!!」

「はいはーい!みんなのアイドル高尾くんがあみだくじ作ったから、これで文句なしでいいだろ、真ちゃん?みなさんもこれでいいですか?」

「さすが和くん!!」

「えっへん!」





和くんはいつのまにあみだくじ作ってくれてたんだろ

さすがとしか言い様がないな

これにはみんな何にも言えないみたいで、紙を順番に回して名前を書いていく

私の番になった時、和くんが近寄ってきて私の耳元で私にしか聞こえないような声で囁いた





「楓ちゃん、右から2番目には書いちゃダメだよ?」


「え?」

「どうした、楓ー?」

「!いえなんにもないです!どうぞ小金井先輩!」




































「…………お前、仕組んだろ」

「ちょっとメンタリズムかじってるんスよねー!」

「……秀徳の奴らもこんな1年2人も、大変だな」

「そこは御愛嬌ッスよ、笠松さん!ほら楓ちゃん、何食べる?」

「私は豚玉にしようかな。浩一くんは?」

「俺、シーフードで。…あの席にならなくて俺ほんとよかった」

「私もちょうど思ってたところだよ」





結果、前の席に幸男先輩、斜め前には和くん、左隣には浩一くん

通路を挟んでリコ先輩とその前に水戸部先輩が座ることになった

そして少し離れたところにある4人席には涼くん、真くん、大我、テツが

あそこだけ空気が重い

斜め前の和くんは楽しそうににまにま

あの4人はまんまと和くんの思った通りのところを選ばされたみたいだ

とりあえず、涼くんの私を呼ぶ声は気のせいだと決め込むことにします

店員さんに注文したらすぐにタネを焼いてくれて、あとは裏返して焼けるのを待つだけに

後ろからの呪文みたいな大我の注文も気のせいだと決め込みます





「俺、楓ちゃんとバスケやってみてーんだよな!」

「ホークアイ持ってる人とはお断りです、絶対やりにくい」

「そんなこと言わずにさー!」

「え、楓、お、お前バスケできるのか……!?」

「笠松先輩、知らないンスか!!!?」

「いや、知らなくて当たり前だよ、和くん」


「楓は元帝光中女子バスキャプテンなのだよ!!」

「もう、あの頃の楓は可愛すぎたッス………!」

「楓はいつでも可愛いに決まってンだろ!!!!」

「可愛いだけじゃなくもちろんバスケのセンスもピカイチです」


「…そんな離れた席からわざわざありがとうね」

「てか真ちゃんたちずっと聞き耳立ててたのかよ!ぶはっ!!!」

「!え、あ、あの桃井楓なのか!!?っげほ、が、げほげほ…!!!」

「ちょ、笠松さんが水で噎せてんじゃねーか!!」

「ぶははははっ!!!!さすがキセキの世代!!!!!あははは!!げほ、っあは、けほ!!」

「こっちも違う意味で噎せてんぞ!!?」

「コンドルがパンツにくいこんどる…………キタコレ!!!」

「悪いけど伊月!今お前なんかに構ってるひまねーから!!」

「お前なんかに!?」


「あ、そろそろ焦げんじゃね、お好み焼き?」

「そうだね、浩一くん!裏返してみよっか」





目の前で起こる惨事から、また現実逃避する

最近このスキルが格段にレベルアップした気がするよ

ほかの1年生と土田先輩方のテーブルはもう別世界みたいに楽しそうだ

あ、寛くんの食べてるお好み焼き美味しそう

浩一くんも現実逃避してるみたいでなんだか目が虚ろだ

……現実逃避なんだよね?


とりあえず目の前のお好み焼きを焦がさないために両手でヘラを持つ

横から浩一くんの応援が聞こえた

うーんうまく返せるかな

お好み焼きなんて昔おばさんの家で、したっきりかもしれない

ヘラをお好み焼きの下に突っ込んで、勢いよく上に持ち上げた





「あ、」





私のお好み焼きは次の瞬間宙を舞っていた

そのままそれは軽やかに飛んでいって、見事に大我の頭の上に

絶望の音が響いた気がした





「私のお好み焼きが!!!!!」

「まずそこなの!!?」

「あ、火神くんの顔がだいぶ凶悪なものになってますよ」

「この顔キレるッスよ、絶対」

「…What is the big idea!!!?You fool!!!Do something!!!! It's you who bring the mess !!?」

「火神が流暢な英語しゃべった!!?」

「火神くん、帰国子女だからね」

「かっこいい筈なのに、頭にお好み焼き乗ってるから半減以下ッスね」

「なんて言ってるんですか、楓?」

「なにしやがんだテメェ。バカだろ。
何とかしろよ、 こんなんにしたのはお前なんだからな!くらいかな」

「あ、そういえば楓も帰国子女だったわね」

「なんでカントクと黒子と楓、そんな冷静なんですか!?」

「火神の頭にお好み焼き、っぶほ!!!!あはは、っひはははは!!!!ひゃひゃひゃ!!!!!!!」

「こっちもなんかスイッチ入った!!」

「笠松さんなんて、英語訳せた楓に見惚れてんじゃねーか!!」

「緑間くんも口元抑えて感動してますね。中学の時は壊滅的でしたもんね」

「俺もうコイツら引っ張っていける自信ねーんだけど」

「キャプテン!!!?」





























鬼は外

(ちょ、お好み焼きは置いて?ね?大我?)





















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