ただ手を伸ばす

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「あ、」

「あ!!!」

「こんにちわ。…っち、」

「ひっ、久しぶりだな!つか舌打ちすんな!!」





私とテツは会場になってる高校にいた

理由は簡単、準決勝の相手になるだろう正邦の試合の偵察


練習は午前までで練習が終わった後リコ先輩に呼ばれてなにかと思ったら、とてもいい笑顔でビデオを手渡された




『楓、この後暇よね』

『私の想像ですけどたぶんはてなマーク付いてなかったですね、はい』

『正邦の準決勝進出を決める試合が午後あるから偵察に行ってきてほしいの!私は昔集めたDVDを、あの汚れきった部室から探しておくから』

『全然いいんですけど地図とかもらえますか?でなきゃ試合時間中に到着しないですよ』

『そういうと思って、今回は黒子くんにお供を頼んでおいたわ!』

『テツ?』

『ええ、楓のために動く、あの黒子くんバージョンなら出くわしても大丈夫だと思うから。火神くんは短気だから今回は遠慮してもらったわ』

『なんの話してるんですか!?』

『とりあえず頼んだわよ!』

『言葉のキャッチボールしてくださいよ』




そんな会話から、冒頭に戻る

その会場の高校に着いた私とテツは体育館に向かってると、涼くんと幸男先輩に逢った

間抜けな声を出す私
目を輝かせて嬉しそうに叫んだ涼くん
挨拶と舌打ちをかましたテツ
そんなテツにツッコんだ幸男先輩

逢うのは久しぶりかもしれない





「久しぶりッス、楓ー!!!」

「久しぶりだね!」

「誠凛も、偵察か?」

「はい。海常もですか?」

「もしかしたら当たるかもしれねえからな」

「それはないですよ?」

「は?」

「勝ち上がるのは正邦でも秀徳でもありません、誠凛ですから」

「……あぁ、そうだったな、わっ忘れてたぜ」

「…ほら楓、早く行かないと始まりますよ」

「あ、うん!」

「待ってよ、楓、黒子っち!!」

「ちょ、待てコラ!!!」





私の手を引いて歩いていくテツ

テツにしては珍しく少し早足で、ついていくのが少しキツい

そんな私のもう片方の手を取って、涼くんは幼稚園児同士が手を繋いで歩くみたいにブンブン手を振る

幸男先輩は涼くんの頭をチョップしながらも一緒に来てくれるみたいだ

ちょ、前からまた舌打ちが聞こえたんだけど







































「うわ、あの坊主頭……」

「…あぁ、調子乗ってた黄瀬くんを止めた人ですね」

「言い方!!!」





体育館の中に入ると、もう試合は始まってて、慌ててビデオを録画モードに

1番前の列がちょうど空いてたからその席に座る

うわ、思ってたよりも近い

なんか緊張がこっちにまで伝わってくる感じ

観客席に座りながら右隣に座るテツと、そのテツの隣に座る涼くんの話に耳を傾ける

私の左隣に座る幸男先輩の話では、正邦のバスケは古武術を応用してるらしい





「古武術?古武術って、あちょー!とか言いながら蹴ったり裏拳したりするやつですか?」

「違うぞ、それ」

「あれ?」

「伝統的な、武具の使用法と、水泳とか乗馬とかの戦闘に関わる技術を体系化したやつを、全部含んで言うんだ」

「…へー、」

「先輩、楓にそんな難しい言葉使っちゃダメスよ、頭パンクしちゃいますから」

「黄瀬くんも人のこと言えないでしょう」

「俺楓ほど頭悪くないッスもん!!」

「涼くんひどい!」

「楓って、そんなに頭悪いのか?」

「……………はい」





なんで私はこんなところに来てまでこんな恥ずかしい思いをしなくちゃならないんだ

ビデオの画面を見つめてたら隣からビデオを取られた

取られたほうに視線を向けると、ビデオを無表情で持ってるテツ

思わず首を傾げたら、腕、疲れたでしょう?ってちょっぴり視線をこっちにやりながら言ってくれた

そんなテツの好意に甘えることにして、私はなにも間に通すことなく試合を見つめる


あ、さっきテツたちが話してたのってあの坊主くんかな

涼くんを止めるなんて単純にすごいと思う

でもよくあんな笑顔でDFできるよなぁ

それにわざと体力を消耗させるようにしてるし

言っちゃダメだけど、私は絶対相手にしたくないタイプだ

正邦がまた点を決めて、自分の陣地に戻っていく時、見つめすぎてたのか坊主くんがこっちを向いて目があった気がした

でもすぐにそらされる

…気のせいだよね


そんなこんなで試合終了

やっぱり予想通り正邦が勝ち進んだ

とりあえずリコ先輩に連絡しなきゃいけないから会場から一旦でることにする

テツたちに一言声をかけて席から立ち上がって出入り口の扉に手をかけた





『……はい、もしもし?』

「楓です、先輩」

『あぁ、報告ね。やっぱり勝ち上がったのは正邦かしら?』

「はい。撮ったテープは明日練習のときでも大丈夫ですか?」

『ええ、大丈夫よ!…あ、正邦に絡まれてない?特に坊主頭!』

「絡まれ?はい、絡まれてないですよ。今は涼くんと幸男先輩たちもいますけど」

『あの海常の!?』

「はい!」

『…さすが楓ね』

「相変わらずなんの話ですか」

『まぁ楽しんでらっしゃい!また報告待ってるわね!』

「もう言葉のキャッチボールは諦めろってことですね」





電話を切って、思わずため息を吐く

…喉乾いたから飲み物でも買ってから席戻ろうっと

ここから見えるところにある自動販売機に向かって歩き出す

今は無難にお茶でいいかな

あ、これ新発売のだ

スカートのポケットから財布を出した





「あー!!!!!!」

「!!うわ!!」

「観客席の最前列にいたよな!?くーっ、今日俺ついてる!!!!!」

「、あなたは、」





急な大声に、思わず財布を上に投げそうになった

振り返るとそこには正邦の坊主頭くん

黒い、革の財布を手に持ってるからたぶん坊主頭くんもなにか飲み物を買いに来たんだと思う

ていうか、なんで最前列にいたって知ってるんだろ





「あそこらへん髪色明るすぎだろって見てたんだ!!」

「…あー、たしかに明るいですね」

「んでよく見たらモデルの黄瀬くんだし、真ん中可愛いなと思ったら桃井楓だし!!月バスで見てから気になってたんだ!」

「だいぶ前ですよね、載ってたのなんて」

「ん、そうだな!だってさ、そんなひょろそうだし、明らかバスケしてるようには見えねーじゃん!けどすんげー強くて、どんなせこい手使ってんだろってさ!」

「…は?」

「あ、けど胸は双子の姉ちゃんとは違ってねーから、動きやすそうだけどな!顔可愛いから相手の監督さんとか落としたの?キャプテンになれたのも同じような感じ?」

「…………」

「やっぱ沈黙ってことは図星!?あはは、やっぱなー!春日先輩とかに教えてやらない ふぶっ!!!」

「…あ、ごめん、足が滑った」





屈んで、昔護身用に征くんが教えてくれた足払いをかます


むかついた

よく周りには褒められたり、尊敬されたり

でも当たり前だけど、そのことを良く思ってない人がいるってこと忘れてた

中学の、女バスの先輩のごく一部に同じようなことも言われた

そんな人たちはすぐにやめていったけど

けれど姉さんのことも話にだされて、比べられて、唯一姉さんより優れた才能をバカにされて、否定されて

ホントに頭にきた


することなんてないと思ってたけど、征くんありがとう

見事に尻餅をついた坊主頭くんの胸を踏んで後ろに押し倒して見下す

あぁ、イライラする





「黙れよ、坊主。残念ながらこっちは神様が唯一私にくれた才能と努力で部長の座とってやったんだよ。お前みたいに言うやつもいたけど全部実力で黙らせてやったよ
あと姉さんを、馬鹿にするようなこと言ってんな。お前なんかが貶していい相手でも、ましてや口に出すことすら許されない。…ホント調子乗んな」

「っ!」


「「「楓!!!!」」」

「………あ、」

「楓、どうしたんですか、このハゲになにかされたんですか、なにか言われたんですか」

「楓、大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫?どこか痛むスか?痛むんスか?」

「…楓、俺が今楓がやろうとしてることの続きしてやろうか?」

「とりあえず、この状況で私の心配してくれることに感動しちゃう、私。あとちょっと落ち着いてね?なんで私以上に動揺してるの」





向こうからテツたちが走ってきた

あ、忘れてた

とりあえずこっちを見ながら固まってる坊主頭くんの上から足をのける

ものすごく心配してくれてるみたいだ

私は買いたかった新発売のお茶を買って3人にかけよった





「…大丈夫だよ、ちょっと転んだだけだから」

「転んであの体勢!?」

「うん、すごい偶然だよね、私もびっくり」

「怒鳴ってたじゃないですか」

「聞き間違いだよ」

「……ホントに大丈夫なのか?」

「転んだだけですから大丈夫ですってば!」

「……………はぁ、これ以上言っても無駄ですね。帰りましょうか」

「うん、早く帰ろう?」


「ッちょっと待ってくれよ!!!」


「はい?」

「お、俺にそこまで言ったのも、あんなことされたのも初めてで!俺、あのっ、」

「…なに言いたいの」

「おっ俺と付き合ってください!!!!」

「、は?」
「え?」
「!!!?」
「はい?」

「え、なんでそうなったの、あの展開から。ていうか普通キレるかするでしょ。え、頭打っちゃった?ごめんなさい」

「いや、俺もわかんないけど、とりあえず踏まれた瞬間とか罵られた瞬間とか、なんか、胸のこの辺がきゅんきゅんていうか、苦しくなって、」





まるでさっきとは別人

さっきまで人を見下すような笑顔だったのに、今目の前でものすごくもじもじしてる

なんだか顔も赤い気がする

…ていうか私いま告白された?





「ちょっと表でお話しましょうか、ハゲ」

「テツ、怖い」

「俺の楓に告白?好き?胸がキュンキュンする?あはははは、」

「いろいろ涼くんも怖い!!どうにかしてください、幸男先ぱ 先輩、固まってません!?」

「ていうかあんなことってなんですか、楓」

「いや私にもわけわかんないです」

「楓さん、電話番号教えて!!!んでまた俺をさっきみたいに 「黙ってください、坊主頭くん!!」 そうそれ!!」





収集がつかなくなって、後ろからなんか坊主頭くんが叫んでるけどそんなこと今は関係ないから、とりあえず3人を引っ張って逃げました

帰ってリコ先輩に電話したら、
『黒子くんは必要なかったわね……。ていうかあのSをMに目覚めさせる楓ってホント一体、』

もうなにも言いません





































同情するなら理解して

(先輩、俺やばいんです、とりあえずやばいんです、踏まれてドキドキしたんス!!)
(岩村!!!!津川がとうとうとち狂った!!!!)












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