ただ手を伸ばす

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「…ホント自分が自分であり得ない」





夕御飯の用意はいつも同じスーパーで買ってたんだけどセールをやってるって聞いたから部活帰りにちょっと行ってみた

ちょっとチャレンジ気分だったんだ。…うん、

そしたら案の定迷った私

さすがに呆れを通り越して泣きそう

ついてきてくれるっていう大我を意地はって帰らせなきゃ良かった

でも電話するのは負けた気がするから電話はしたくない

どうしようかなって悩みながら歩いてたらなぜか駅に着いててびっくりする

たしか反対方向だった気がするけど、…まぁ気にしちゃだめだよね


それで、帰ろうと少し急ぎながら歩いてたら、ふと前の男子が目に入った

なんだか特徴的な眉毛の子と前髪が長くてフーセンガムを膨らましてる子

見ない制服だからこの辺の高校じゃないのかもしれない


なんとなく見てたらフーセンガムの子がズボンの後ろポケットに入れてた財布を落とした

人混みだからか気づいてないみたい

ここで放っておいたら最低なやつだよね?

スーパーの袋を持ってないほうの手で財布を拾って追いかける





「おにーさん!財布落としましたよ!」

「え?」

「落としましたよ、財布」

「……あ、」

「やっぱり気づいてなかったんですね。じゃあ、これで、」

「待って」

「なんですか?」

「財布拾ってくれてありがとう、お礼になにかしたいんだけど」

「お礼なんていいです、拾っただけなんですから!」

「僕はこの財布の持ち主の入ってる部活の部長でね、お礼はしておかないと気が済まないんだ」

「………じゃあお言葉に甘えさせてもらいます」

「うん、」





私も部長だった時があるから無下にはできなかった


私は姉さんよりは良くないけど、人を見る能力には長けてると思う

だからこの眉毛の人を見て少し違和感

笑ってる、たしかに笑ってる

けど本心からじゃない

上っ面だけ

言っちゃ悪いけど猫を被ってる、絶対

けれど私になにかするつもりはないと思う

そんな笑みに気づかないふりをしながらまだ笑顔を浮かべる眉毛の人とフーセンガムの人についていった


























やってきたのは近くの喫茶店

あ、そういえばここ和くんと来たなー

案内された席で、私の前に2人が座る

眉毛くんがなにがいい?って聞くからとりあえず紅茶をお願いする

眉毛くんはコーヒーで、フーセンガムくんはメロンソーダ

注文を聞きに来た店員さんに眉毛くんが頼んでいく

見た目、人の良さそうな笑顔を浮かべる眉毛くん

店員さんが持ってきてくれたお水に映る私を眺めてたらフーセンガムくんが口を開いた





「さっきは財布ありがとーね、俺は原一哉」

「僕は花宮真だよ」

「桃井楓です」

「その制服は誠凛だよね?僕たちは霧崎第一って高校なんだ」

「先輩、ですよね?」

「桃井って1年?ならそうなっちゃうなー」

「…じゃあ花宮先輩、」

「ん、なにかな?」

「しんどくないんですか?」

「、は?」

「そんなに無理矢理笑っててしんどくないんですか、って意味です」

「…どういう意味かよく分からないな、」

「私、まだ人を見る能力には長けている方なんです。あと知ってました?作り笑いの時は口元の筋肉からさきに動いて目元の筋肉が少し遅れて動くんです。それが素、なんていいませんよね、花宮先輩?」

「、ふはっ、ははははは!!」

「え?」





急に笑いだした花宮先輩

こっちまでビックリする

原先輩は目を軽く見開きながらこっちを見てた

それから、花宮先輩と同じように笑う原先輩

ちょ、周りの目が痛い





「え、桃井すげーね。自分から花宮の本性見破れたやつなんて俺初めて見たんだけど、」

「おもしろいじゃねーか」

「急に口が悪くなりましたね」

「もう隠す必要なんてねーんだろ?」

「なにも嫌なんて言ってないじゃないですか」

「つか桃井も敬語やめたら?しょうみ敬語なんてダルくね?」

「先輩ですから敬語は外せません、さすがに」

「つか桃井って、あの帝光女子バスのキャプテンだった、あの桃井楓だろ?」

「は、まじで!?」

「…一応そうです」

「ふはっ、一応じゃねーだろ」





さっきとは違って意地悪そうに笑う花宮先輩

悪そうな笑みだけど違和感はもうなくなった

いつのまにか持ってきてくれてた紅茶にミルクと砂糖を入れていく





「高校でも女子バスやってると思ってたぜ」

「気まぐれですよー」

「まぁ誠凛っていうのが楽しいけどな」

「楽しい?」

「気にしないでいいよん」

「ていうか先輩たちもバスケ部なんですか?」

「一応これでもスタメン」

「つか知ってたらついてこねーだろ」

「え、有名でしたか?!すみません、まだ高校の強豪校は把握してなくて、」

「あー…、有名っていっちゃ有名?」

「有名だな」

「へぇ、そうなんですね!」

「つかこんなことなら山崎とかもつれてきたらよかった。絶対反応おもしろかったのになー」

「いても約一名寝てるだけだろ」

「同じレギュラーの人ですか?」

「うん、そーそー!目つき悪いのと無表情とアイマスク」

「個性的すぎますね」

「んー、たしかにな」

「でも楽しそうですね、なんか」

「全然楽しくねーよ、普段は一緒にいねーしな」

「花宮の素知ってんのはバスケ部だけだからそういう意味ではよくいるけどねん」

「……内申よさそうですね」

「そのためにあのキャラつくってんだからな」

「悪魔がいる」

「つか俺たちは時間大丈夫だけど桃井は大丈夫なの?」

「あ"、」





先輩に言われて時計をみてみると思わず泣きそうになった

恐る恐るカバンの中のケータイを見る

画面には着信……言うのも怖い

相手なんて見なくても誰か分かる

静かにカバンを戻す

前にもあったよな、たしか




「彼氏から連絡でも入ってたのかよ?」

「友達から電話が入ってまして。ていうか彼氏なんていません」

「え、彼氏いねーの!?」

「いませんけど。嫌みですか?」

「いやいると思ってた」

「残念ながらいませんよ」

「ま、いてもいなくても変わんなかったけどな。…楓、メアド教えろ」

「え、いま名前、」

「別にいいだろ?」

「俺にも教えて!」

「別にいいですけど、」

「あと俺一哉先輩、はぁとって呼んでほしい」

「はぁと、なしなら全然いいですよ」

「そこがいいんじゃん!」

「…ほらよ、原には俺が送っとく。またメールしてやるから登録しとけよ」

「絶対送ってくれねーやつじゃん!」

「了解です、紅茶ごちそうさまでした」

「また来ような、楓ちゃん」





ケータイを受け取ってカバンと袋を手に持つ

口元は笑ってる一哉先輩。どんな目してるのかすごく気になる

髪の毛と同じ、綺麗な色をしてるのかな





「楓、」

「なんですか?」

「また絶対逢えるよな?」

「え、」

「…なんて言うと思ったか、バァカ」

「先輩!」

「あ?」

「次逢えるの、楽しみにしてますね!」

「おー、もちのすけ」「…あぁ、」





さて急がないと私の命が危ないぞ




























おもてのうらのうら

(あー、可愛いなー)
(…そうだな)
(そうだ……はぁ!!?)











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