ただ手を伸ばす

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次の日、学校行く気になれなくて休んだ

大我はすごく心配してくれて看病するのに休むって言ってくれたんだけど、仮病なわけだし無理矢理断った。なかなか首を縦に振ってくれなかった、うん

部活のみんなとかクラスの子たちからの心配メールが来る度になんだか罪悪感

特に孝輔先輩からは謝罪メールとか心配メールがたくさん来た

こっちが謝らなきゃいけないのに


そういえばずる休みなんてあの時以来かもしれない


家にいるのも飽きて、街にでてみた

方向音痴なんて気にしない

なんだか歩いて、人を見て、ぶらぶらしたかった




駅の近くのアーケードをぶらぶら歩く

昔姉さんとお揃いに買ったパーカーを着て歩く


人とすれ違って、話し声が聞こえる筈なのに全くの無音

周りの色も分かんない





「ちょ、き……楓、?」

「え?」





急に肩を叩かれて現実に引き戻された


なんだか聞いたことがある声のような気がする

男の人は私の顔を見て、目を見開いた

それから言葉を途中で止めて私の名前を呼んだ男の人

黒い髪の毛に、なんて説明すればいいか分かんない髪型

髪型は少し怖いけれど、俗に言う甘いマスクってやつだと思う

懐かしく思えたのはきっと気のせいだ





「どうしたんだよ?」

「……悪ィ、ちょっとあっち行く」

「はぁ?!分けっこって言ったじゃん!!」

「黙れっつの」

「ちょっ、」





男の人は私の肩を抱いて人通りの中を歩いていく

後ろで男の人の知り合いらしき人が叫んでるけど大丈夫なのかな

…じゃなくて、声を出そうとした瞬間いつのまにかいた公園のベンチに座らされた

思わず間の抜けた声が出る





「楓、だよな…………?!」

「え、なんで私の名前…」

「あー分かんねーよな。俺、灰崎!灰崎祥吾だって!」

「……あの祥吾くん?」

「そうそう!!覚えててくれて嬉しいわ、俺!」





1、2年の途中まで帝光男子バスケ部のレギュラーだった祥吾くん

女遊びと喧嘩沙汰が絶えなかった

けど実力は本物だったと思う

涼くんの模倣と似てるけど少し違ったものでその技を使えなくさせるもの

けれど私には元々技ってやつがないから効かなかったらしい

征くんはよく悩んでたけど、中2の時涼くんと入れ違いみたいに強制退部

それでもたまに話したりしてた

祥吾くんにも何も言わずに出てきちゃったんだよね


昔とは別人みたいだ





「すんげー可愛い子いると思って声かけたら楓でビックリしたわ。久しぶりにこっち来てみたら楓に逢えるし、俺ツイてんな!!つか楓もサボりかよ?」

「今日はサボりたい気分だったの。別に毎日サボってるわけじゃないよ」

「ま、たしかにバカだけどマジメな楓がサボりになるとはイメージできねェな!」

「バカじゃない…もん!!」

「昔からバカは変わんねェよ、やっぱ」

「祥吾くんは、変わったね」

「よく言われるわ」





少し寂しそうに笑った気がした

昨日の大輝くんと被る





「でも気ぃついたら学校いねェし、あん時はさすがにビックリしたっつの。すんげェ寂しかったんだぜ?結構仲良くなれたと思ってたのに言ってくれなかったしよ、」

「………ごめんね、誰にも言ってなかったから」

「ま、今日逢えたからいいんだけどな!」





さっきとは違って昔みたいな笑顔を見せてくれた祥吾くん

すごく懐かしくて、泣きそうになる

バカみたいだ





「でもさ、あの楓が珍しいな。なんかあったのかよ?」

「、なんにもないよ」

「…バァカ」

「!うわっ、くしゃくしゃになるよ……!」

「直してやるから気にすんな、…じゃねェ!!楓は昔から分っかりやすいんだよ!楓に笑顔以外は似合わねェから笑っとけ」

「しょう、ごくん」

「言いたくねェならそれをちゃんと言え。心配かけさせたくねェなら全部言え。分かったか?」

「っうん!」

「やっぱそうやって笑っとけ、楓は」





私のくしゃくしゃになった髪を直しながらまた微笑んだ


祥吾くんは昔から、苦手意識を持たれやすいタイプだったと思う

現に私も初めは少し苦手だった

口悪いし、人の盗っちゃうし、すぐに手を出しちゃうし


けど、私はこんな祥吾くんを見て、祥吾くんが好きになった

人の噂とか上辺だけで嫌ってしまいかけてた私が今でも恥ずかしい





「ケータイ貸せ、俺のメアドとか登録しとく」

「えー、」

「文句でもあんのか?」

「冗談だって!…はい、じゃあ頼むね」

「おー」





手慣れた手つきで登録していく祥吾くん

どうやら女遊びは抜けてないらしい


私のケータイは1分たったか、たたないかくらいで返ってきた

アドレス帳を開いてみるとそこには《祥吾》の文字があって、少し頬が緩む


そしたら祥吾くんのケータイが鳴って、どうやら電話だったらしくダルそうにケータイを耳に押し当てた祥吾くん

それからちょっと言葉を交わしてからまたダルそうに電話を切った





「悪ィ、連れの奴がうるせェから今日は帰るわ」

「あ、うん…!」

「暇だったら電話するから。んじゃまたな」

「ばいばい!」





祥吾くんの背中が見えなくなるまで見送った


それから私はベンチから立ち上がって、家の方に足を向ける

煩い人混みを、なんだか心地よく感じながらアーケードを走り抜けた
































懐かしい日だまり

(……俺じゃねェみてェで気持ち悪ィ)










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