ただ手を伸ばす
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「どこにいるんだろう……」
大我に背中を押されて走ってはきたものの、肝心の涼くんがどこにいるか分からない
方向音痴だしあんまり歩き回りたくないんだけどな
そんなことを思いながらも歩き回ってると話し声が聞こえた
思わずそっちに歩いてく
行った瞬間後悔
涼くんは確かにいた
けど涼くん以外に、昔見慣れた緑が見える
息が詰まりそうだった
最近遭遇率が高い
…いやバスケに関わってるんだから仕方ないけど
回れ右をしてスタンディングスタートから踏みだそうとした時声が聞こえた
遅かったらしい
「……楓…?」
「は?!楓がなんでここにいるんスか?!てかもろダッシュしようとしない!!!」
ダッシュしようとしたらジャージの端っこを掴まれた
今だけはブカブカジャージ恨みます
そのまま真くんのところまで連行された
あ、後ろに和くんまでいる
なんか驚いてるけど……、あ、私地毛を和くんに見せたことなかったっけ
……今はそれどころじゃないんだ
「ッ今まで何をしていたのだよ??!何も連絡も無しに急に消えて……!!!俺たちがどれだけ心配したかッ!!!」
「それ俺もこの前言ったッス」
「このッ……!!」
「!!緑間っち!!!!」
ずんずんと近づいてきた真くん
殴られる
直感的にそう思った
涼くんの心配気な声が聞こえる
来るであろう衝撃に思わず目を瞑った
でも意外にも衝撃は来ることなく、私が暖かさを包んだだけで、恐る恐る目を開ける
目の前には黒い学ラン
真くんに抱き締められていることに気が付くのに数秒かかった
「真、くん…………?」
「無事で良かったのだよ………ッ!!!」
2年ぐらい一緒にいて、真くんのことはだいぶ分かったつもりでいた
だからこそ真くんの消え入りそうな声に胸がものすごく痛い
真くんの私を抱き締める腕の力が強くなる
この時ばかりは痛いなんていう文句は言えなかった
「……ちょっ、勝手にマイワールドに入らないで!!?」
「邪魔するんじゃない、黄瀬」
「邪魔するッスよ?!てか楓、俺ん時はそんなに泣きそうな顔してなかったッスよね?!差別だぁぁあ!!!!!」
「差別じゃないよ、区別だよ」
「余計傷つく!!!」
「いや、割り込むようで悪いけど楓ちゃん、だよな……?」
「うんそうだよ!地毛はこっちなんだ」
「一瞬分かんなかったわ…。つか楓ちゃん海常だったっけ?」
「あ、これ借りてるの」
「!!誰にスか??!」
「?幸男先輩だよ」
「ブカブカジャージもいいけどほかの奴のは気に入らないなー」
「……黄瀬、」
「分かってるッスよ」
ちょ、真くんと涼くんの顔が怖い
和くんは校舎の方になんか手を合わせてる
え?
「じゃあ楓はどこの学校なのだよ?」
「楓は(気に入らないけど)誠凛スよ」
「よりによって黒子と同じとはな。…そういえば高尾、楓と知り合いだったのか?」
「あの言ってた迷子ちゃん!」
「迷子ちゃん?!」
「でもまさか楓ちゃんが真ちゃんの中学校時代からのおも「黙るのだよ!!!!」あはは、ごめんって」
「たしかに昔から楓は方向音痴だったスね」
「よく迷っていたのだよ」
「そんな過去は今思い出さないで??!」
意外にも冗談を言いながら笑い合えてることが嬉しかった
私から投げ出しておいて、矛盾してるっていうのは分かり切ってる
そんな私を現実に引き戻すように、私のケータイの着信音が鳴り響いた
液晶画面を見れば『リコ先輩』の4文字
慌てて通話ボタンを押して耳に押し当てる
「は、はい…!」
『楓?お楽しみタイムごめんなさいね、ホントは見たか……ごほんごほん、本題に入るわ
黒子くん、病院に行ったんだけど異常ナシよ!それで今駅近くのステーキ屋にいるんだけど今すぐ来てくれない?火神くんと黒子くんの機嫌がヤバいの。このままじゃ人誰か殺しちゃいそうな勢いなの。じゃあ頼んだわよ?』
「あ、!」
ツーツーツー
「……マシンガントークだ」
「?誰スか?」
「カントクのリコ先輩!なんか今ステーキ屋さんにいてるらしいんだけどどこか分かる?聞かれる前に切られちゃった」
「ステーキ屋?」
「…あ!ならたぶん食べきったら無料の貼り紙があった所だと思うッス!!あそこ、駅までの道にあるから!」
「楓、送ってもらえ」
「!いや、涼くんに悪いよ……!」
「迷われた方が迷惑なのだよ。黄瀬というのが気に食わないがな」
「最後の超いらない!!…でもまぁちょうど黒子っちと話したいし送って行くッスよ!すぐ着替えてくるんで待ってて!」
「あ!」
そう言って走っていった涼くん
あれ、私何しに来たんだっけ
「……楓、」
「…なぁに、真くん?」
「急にいなくなった理由は話してくれないのだろう?」
「………ごめん」
「いやいい、また話したくなった時にでも言ってくれればいいのだよ。……帰るぞ、高尾」
「!!待てって!!!じゃあね、楓ちゃん!」
「あ、ばいばい!」
2人はリアカーで帰っていった
もうこの際ツッコまない
なんだかその優しさにまた胸が苦しくなった