ただ手を伸ばす

□13
1ページ/2ページ







「どこにいるんだろう……」





大我に背中を押されて走ってはきたものの、肝心の涼くんがどこにいるか分からない

方向音痴だしあんまり歩き回りたくないんだけどな


そんなことを思いながらも歩き回ってると話し声が聞こえた

思わずそっちに歩いてく


行った瞬間後悔

涼くんは確かにいた

けど涼くん以外に、昔見慣れた緑が見える

息が詰まりそうだった

最近遭遇率が高い

…いやバスケに関わってるんだから仕方ないけど


回れ右をしてスタンディングスタートから踏みだそうとした時声が聞こえた

遅かったらしい





「……楓…?」

「は?!楓がなんでここにいるんスか?!てかもろダッシュしようとしない!!!」




ダッシュしようとしたらジャージの端っこを掴まれた

今だけはブカブカジャージ恨みます

そのまま真くんのところまで連行された

あ、後ろに和くんまでいる

なんか驚いてるけど……、あ、私地毛を和くんに見せたことなかったっけ

……今はそれどころじゃないんだ





「ッ今まで何をしていたのだよ??!何も連絡も無しに急に消えて……!!!俺たちがどれだけ心配したかッ!!!」

「それ俺もこの前言ったッス」

「このッ……!!」

「!!緑間っち!!!!」





ずんずんと近づいてきた真くん

殴られる

直感的にそう思った

涼くんの心配気な声が聞こえる

来るであろう衝撃に思わず目を瞑った


でも意外にも衝撃は来ることなく、私が暖かさを包んだだけで、恐る恐る目を開ける

目の前には黒い学ラン

真くんに抱き締められていることに気が付くのに数秒かかった





「真、くん…………?」

「無事で良かったのだよ………ッ!!!」





2年ぐらい一緒にいて、真くんのことはだいぶ分かったつもりでいた


だからこそ真くんの消え入りそうな声に胸がものすごく痛い

真くんの私を抱き締める腕の力が強くなる

この時ばかりは痛いなんていう文句は言えなかった





「……ちょっ、勝手にマイワールドに入らないで!!?」

「邪魔するんじゃない、黄瀬」

「邪魔するッスよ?!てか楓、俺ん時はそんなに泣きそうな顔してなかったッスよね?!差別だぁぁあ!!!!!」

「差別じゃないよ、区別だよ」

「余計傷つく!!!」


「いや、割り込むようで悪いけど楓ちゃん、だよな……?」

「うんそうだよ!地毛はこっちなんだ」

「一瞬分かんなかったわ…。つか楓ちゃん海常だったっけ?」

「あ、これ借りてるの」

「!!誰にスか??!」

「?幸男先輩だよ」

「ブカブカジャージもいいけどほかの奴のは気に入らないなー」

「……黄瀬、」

「分かってるッスよ」





ちょ、真くんと涼くんの顔が怖い

和くんは校舎の方になんか手を合わせてる

え?





「じゃあ楓はどこの学校なのだよ?」

「楓は(気に入らないけど)誠凛スよ」

「よりによって黒子と同じとはな。…そういえば高尾、楓と知り合いだったのか?」

「あの言ってた迷子ちゃん!」

「迷子ちゃん?!」

「でもまさか楓ちゃんが真ちゃんの中学校時代からのおも「黙るのだよ!!!!」あはは、ごめんって」

「たしかに昔から楓は方向音痴だったスね」

「よく迷っていたのだよ」

「そんな過去は今思い出さないで??!」





意外にも冗談を言いながら笑い合えてることが嬉しかった

私から投げ出しておいて、矛盾してるっていうのは分かり切ってる


そんな私を現実に引き戻すように、私のケータイの着信音が鳴り響いた

液晶画面を見れば『リコ先輩』の4文字

慌てて通話ボタンを押して耳に押し当てる





「は、はい…!」

『楓?お楽しみタイムごめんなさいね、ホントは見たか……ごほんごほん、本題に入るわ
黒子くん、病院に行ったんだけど異常ナシよ!それで今駅近くのステーキ屋にいるんだけど今すぐ来てくれない?火神くんと黒子くんの機嫌がヤバいの。このままじゃ人誰か殺しちゃいそうな勢いなの。じゃあ頼んだわよ?』

「あ、!」




 ツーツーツー




「……マシンガントークだ」

「?誰スか?」

「カントクのリコ先輩!なんか今ステーキ屋さんにいてるらしいんだけどどこか分かる?聞かれる前に切られちゃった」

「ステーキ屋?」

「…あ!ならたぶん食べきったら無料の貼り紙があった所だと思うッス!!あそこ、駅までの道にあるから!」

「楓、送ってもらえ」

「!いや、涼くんに悪いよ……!」

「迷われた方が迷惑なのだよ。黄瀬というのが気に食わないがな」

「最後の超いらない!!…でもまぁちょうど黒子っちと話したいし送って行くッスよ!すぐ着替えてくるんで待ってて!」

「あ!」





そう言って走っていった涼くん

あれ、私何しに来たんだっけ





「……楓、」

「…なぁに、真くん?」

「急にいなくなった理由は話してくれないのだろう?」

「………ごめん」

「いやいい、また話したくなった時にでも言ってくれればいいのだよ。……帰るぞ、高尾」

「!!待てって!!!じゃあね、楓ちゃん!」

「あ、ばいばい!」





2人はリアカーで帰っていった

もうこの際ツッコまない


なんだかその優しさにまた胸が苦しくなった









次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ