ただ手を伸ばす

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「え、私先帰るよ……!」

「何言ってんだバーカ。お前を1人で帰らすわけにはいけないんだよ」

「じゃあどっかで待ってる」

「迷子になる」

「いやいや…!」

「5分の道のりを迷ったお前に信用はねー」

「………」





いっ言い返せない!!!!


和くんに送ってもらった後、帰ってきた大我にとりあえず怒られた

なんで無理して帰ったんだ、とかなんちゃらこうちゃら

和くんのことを話せば、なぜかケータイ折られそうになったから慌てて死守

ホント何がしたかったんだ


そしてその次の日

今日は一緒に帰る事になったんだけど、あいにく職員会議とかなんかで教室を閉められちゃった

だからいま大我に体育館に来るように言われてる

ほかの所で待ってるって言っても昨日の事があるからか、もう決定事項らしい

私の事情は知ってるけどそれ以上に心配してくれてるんだと思う

……いや嬉しいけどさ

逃げないようにガッチリ掴まれた肩

まるで逃走するのが分かってるみたいだ

図星ですが、なにか?





「端っこに居とけ」

「大我の鬼!!赤鬼!!!」

「見たくねーなら目でも瞑っときゃいいだろ」

「そんな薄情な…!」

「こんちわーっス」

「何勝手に入ってんの??!」





体育館に入れば、皆の視線が突き刺さる

思わず大我の胸に顔をうずくめれば、頭を撫でられた





「コイツ見学させるから…です」

「なんだ彼女か?」

「!!ちっ違ぇよます!!」

「へ〜。ま、いいよ。イス出してあげろ」

「ッス」





ふと見れば優しそうなメガネの人

ずっと見てたら目が合っちゃって慌てて逸らされた

……え、泣いていい?





「んじゃここ座っとけよ」

「あっうん!!」

「じゃあな」

「頑張ってね」





そう言えば、大我は笑顔で更衣室があるであろう場所に走っていった

てか視線が痛い

とにかく痛い





「………楓、さん………?」


「え、」





消え入りそうな声で名前を呼ばれた

その声の方を見る

私は思わず叫びそうになった

水色の髪に同じ色をした瞳

今にも消えてしまいそうな雰囲気

私の中で1人の名前が浮かんだ

私の理解者でとても信頼してた人


 "黒子テツヤ"


テツくんはそんなに驚いたのか持ってたカバンを落としてた

いつも無表情のテツくんが珍しい

声をかけそうになるけど、そこは頑張って押さえ込んだ

時間が止まったような気さえした





「……誰ですか?たしかに名前は楓ですけど、私はアナタを知らない」

「ぇ……」

「すみません、人違いです」

「……ならすみません。つい知り合いと似ていたもので」






テツくんはカバンを拾って、さっき大我の向かった方向へと走っていった


…なんで分かったんだろ

髪の色も眼の色も違うのに

私はウィッグの髪の毛を触る





「あっ、アナタ!!!マネージャーやってくれる気になったの??!」

「へ、あ!」

「ここに来たってことはそうなんでしょ!?」

「いや私は……!」

「カントク、あんま困らせんな」

「日向くん!」

「(あ、さっきの優しそうな人だ…)」

「火神待ってんだって。だから絡んでやんな」

「え、だって!」

「ほら、1年は何させんの」

「……分かったわよ。あ、名前だけ教えてくれない?」

「桃井楓です」

「ありがとう!(どこかで……)」





それから、練習が始まった

可愛い先輩はどうやら監督らしい

今時の子はスゴいね、全く

たまにこちらを見るテツくんの視線は勘違いじゃない…ハズ

あの無表情で見られるのはなんだか怖い

てか背伸びたな…

なんか昔はあの中にいたからかあんまり大きいイメージは無かったんだけど、それは思い違いだったらしい


久しぶりに聞くドリブルの音、床とシューズが擦れる独特な音

昔は毎日聞いてたのに

私もあの中にいたのに

なんだか疎外感





「ロード削った分時間余るな……、どうするカントク?」

「…ちょーどいいかもね、5対5のミニゲームやろう!1年対2年で!」





あ、大我が燃えそうだ





「ビビるとこじゃねー、相手は弱いより強い方がいいに決まってんだろ!行くぞ!!」





それから試合が始まって、ティップオフは当たり前だけど大我が取った

そしてそのままダンク

大我のダンクに、先輩たちもビックリ通り越してちょっと引いてるみたい


それからも大我がアタックして、ブロックして、いつのまにか1年チームが勝ってた

けど当たり前だけどそんな大我を放っておくはずがなくて、ボールを持ってない状態でも最低2人のマーク

ボールに触れる事さえできなくて、呆気なく逆転されてダブルスコアで一旦インターバル

大我以外はもう諦めてるらしい

…いやテツくんも諦めてないか

あの大我に膝かっくんしてキレられてたし

そして始まった

そろそろテツくんの"あれ"が始まる





「……え、あっ!」




 バスッ




「え、…な、入っ…えぇ?!今どーやってパスと通った?!」

「分かんねぇ、見逃した!!」





それからテツくんのミスディレクションのおかげで、またパスが繋がるようになって36ー37に

ラスト、テツくんがパスカットしてシュートを決めて終わりかと思ったら期待を裏切ることなく見事に外してくれた





「……だから弱ぇ奴はムカつくんだよ、ちゃんと決めろタコ!!!」




 ガンッ




「うわぁああ!!!1年チームが勝ったぁ!!!?」





試合終了のホイッスル

外したシュートをそのまま大我がダンク

変わってないプレーに、思わず笑顔になった





「楓!!見てたかよ!!?」

「もちろん!カッコよかったよ!」

「!っそ、そうかよ……」

「?」





大我は頭に乗せてたタオルで顔を隠した

覗き込もうとしたら頭をガシガシ撫でられた

い、痛い……!

なんか向こうで先輩方が笑っておられる

そりゃ腹を抱えて盛大に





「………楓さん、」

「!!あ、」

「僕と1on1してください」

「え」

「「「「!!」」」」

「な、何言ってんだよ黒子っ……?」

「僕が勝ったらマネージャーになってください」

「そんな冗談……」

「冗談じゃないです」

「私みたいな素人がバスケやってるアナタに勝てるわけないじゃないですか…!」

「やってみなくちゃ分かんないです。…いいですよね、先輩?」

「えぇ、いいわよ」

「!カントク!!?」

「ありがとうございます。じゃあやりましょうか、楓さん。マネージャーをしたくないんだったら僕に勝てばいいだけの話です」

「…分かりました」

「!おい楓…!?」

「大丈夫だよ、大我」

「……じゃあやりますか」

「お手柔らかにお願いしますね?」

「こちらこそ」







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