ただ手を伸ばす

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私には双子の姉がいる

私と同じ色の髪に、同じ色の瞳

私は姉が大好きだった

優しくて頼れる姉

可愛くて誰もが尊敬する姉

運動神経もそこそこ、頭はバリバリ

皆に愛される姉

私も大好きだった



けれど私にはそんな姉に比べ、全く可愛くないし駄目人間

ただバスケができるだけ

好きで好きで、これだけは姉に負けなかった



皆私なんか相手にしないで姉ばかり見た

まぁ当たり前だけどね

けれどバスケの時だけは違ったんだ

皆が私だけを見てくれた



私たちには幼なじみがいる

褐色の肌に青い髪の青峰大輝、通称大輝くん

大輝くんもバスケが大好きで、ただ毎日一緒にバスケをした



中学に入って、部活はもちろん女子バスに

そこで私は才能が認められ、1年生ながら部長をやらしてもらった

嬉しかった

ただ嬉しかった

けれど、大好きな姉の大好きな笑顔でまた壊された





『大ちゃんにつられて、私も男子バスケ部のマネージャーになっちゃった!』





姉が情報収集に長けているのは知ってた

一瞬にして逆戻り


けれど、後に"キセキの世代"と呼ばれる彼らは私自身を認めてくれた

私にまた居場所ができた気がした


仲良くなって一緒に練習したり、遊んだり、そうしてる内にいつのまにか2年生

全中2連覇を成し遂げた辺りだったかな?

男女共に全国大会優勝

でもやっぱり注目されるのは男子

そこでまたマネージャーをしていた姉が注目されるのは当たり前だった


また不安になった

そんなある日、たまたまストリートコートで大輝くんに逢った


私は大輝くんのプレースタイルが好きで憧れてた

涼くんみたいに

もしかしたらその頃の私は憧れ以上の感情を抱いていたかもしれないけど


一段落して休憩してた時

私は聞いた





『……私ってホント何にもないよね!私は姉さんよりいい所なんてバスケできるだけだし、可愛くもないし!…私ってやっぱり必要ないのかなあ?』





憧れの人になにか言葉をもらえれば私はまだやっていけるかもしれない

ただ純粋にそう思った


けれど返ってきた言葉は簡単に私を切り裂いた





『たしかにな、お前からバスケ取ってもなんも残んねェな。胸もさつきと違ってねェし、俺と学力も一緒ぐらいだし。ま、変わんねェんじゃねェの?けどさつきのが役に立つのは確かだな』





目の前が真っ暗になった

悲しかった

けれど涙は出なかった

人は悲しすぎると涙が出ないっていうのはホントだったみたいだ

私はまだ口を開こうとした大輝くんに言葉を重ね、その場から逃げ出した

どうやって家に帰ったかも覚えてない


けど帰った後のことは鮮明に覚えてる





『……父さん、母さん。私…、アメリカの叔父さんの所に行きたい』

『………どうしたんだい、いきなり?』

『私もう姉さんと比べられるのは嫌!!!もう……、もう…!!!』

『…一度聞いてみるわ』





私の気持ちを分かっていてくれていたのかなんて分かんないけど父さんたちは悲しそうな顔をしながら承諾してくれた





『姉さんとか友達には私が日本を発つまで言わないで』

『…あぁ』





急かもしれないが、もう嫌だった

私は次の日に発つことにした

女子バスの皆には悪かったけど、バスケをする気にはなれなかった

色々相談に乗ってもらってたテツくんにもなにも言わなかった


けれど条件として高校は日本の学校に入学することを決められた

私の部屋にあった家具とかは私が帰ってくるまでの間、おばぁちゃんの家に置いておいてもらうことにした

そして次の日、私は風邪と称して学校を休んだ

やっぱりこんな時でも輝く笑顔の姉を送り出して、私も用意に取りかかる

数分後に業者の人が来て、家具を運んでもらった

それから、必要な物だけボストンに詰める

飛行機の時間が近付き、ボストンバックを持ち部屋を出る

もうこの部屋には帰ってこないつもり


空っぽの部屋の真ん中に"想い出"は置いてきた

私はもう振り返らずに部屋を出た













アメリカはいい所だった

叔父さんは急に来た私を優しく受け入れてくれて、偶々近所に住んでた日本人の火神大我、通称大我とお兄さん的存在の氷室辰也、通称辰也兄とも仲良くなれた

あと2人のバスケの師匠のアレックス

2人はバスケが好きだった

けど私は何故か嫌いになった

前みたいにやりたいと思わなくなった

あと変わったのは、大好きだった髪と瞳が急に嫌になった黒のウィッグとカラコンを付けるようになったぐらい?


私は、2人がバスケをする時だけは一緒にいなかった

2人にはアメリカに来た理由も全部話した

けれど2人は笑顔で受け入れてくれた





『楓は楓だろーが!!!』





今度は涙が出た

2人の胸で思いっきり泣いた


そして気が付いたらまた約1年経って、日本でいう高校生になった

私は約束通り日本に帰ることになった

前と違うのは大我も一緒に帰ること

学力も一緒ぐらいだから同じ高校にした

家には帰りたくないからまた父さんたちに頼んで高校から近いアパートを借りた

ちなみにお隣さんは大我





「おら、学校遅れんぞ、楓」

「分かってるよ!」








プロローグ

(ここからが始まり)






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