あはれとも、

□仇幕
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「風榎、」

「、だんな?」





私が神威の通された部屋に向かう途中、私の名前を呼ぶ声が聞こえた

そちらを振り向けば、いつもみたいに煙菅をふかせた高杉の旦那

背中を壁に預けながら口角をあげて意地悪く笑ってた

私は腫れているであろう目を隠すために少し俯きながら寄っていく





「なんだ、今日は祭りか?」

「一体どうやって入ったんだか。あと今日は帰れ、相手をしている暇はない」

「春雨でも攻めてきたか?」

「…知ったうえで、か。なんだ、百華に殺されにでもきたのか、高杉の旦那?」

「吉原の最期ってやつを見に来ただけだ」

「それはどういう意味だ?」

「まぁご自由に考えろ」

「今日は河上の旦那は一緒じゃないんだな」

「いつも一緒ってわけじゃない」

「そうか。…じゃあ私は失礼させてもらう、これでも忙しい身なんだよ」

「泣いたのか?」

「は?」

「目腫れてんだろ、こっち来い」

「ちょ、」





旦那に腕を引かれて、旦那の胸に飛び込むみたいな感じになる

嗅ぎ慣れた煙の匂いと旦那の匂いがした

少しボーッとしてたら顔の半分以上を覆ってる黒い布に手を掛けられてて、気がついた時にはもう遅くて、

今まで晒したことのなかった顔全部が高杉の旦那の瞳に映る

その瞳に私が嫌う金色が映って、思わず目を背けた





「こんな目してたのか」

「視るな」

「綺麗じゃねーか、なんで隠していやがった」

「は、?」

「ガラスと月みてーな目してんな」

「オッドアイなんてただの忌み子だ…!こんな目、」

「その目を1人でも綺麗だって言うやつがいればいいだろーが。もし今まで言うやつがいなかったんなら俺が最初だな」

「ばっバカじゃないのか…!」

「あぁ、俺ァバカだ、そんなこたァとっくの昔に承知の上だ」

「ッとりあえず離せ。私は急いでるんだ!!」

「俺の質問にはまだ答えてねー。泣いたのか?」

「泣いてなんかいない!」

「分かるに決まってんだろ、目は腫れてるし泣きそうな顔してんだよ。つまんねー嘘つくな」

「泣いて、なんか!!!」

「あー、はいはい、聞いて悪かった」





離れようと旦那の胸を押しても、反対に頭の後ろを抑えられて押し付けられた

それから赤ちゃんをあやすみたいに頭を一定のリズムで優しく頭を撫でられる

バカにされてるみたいなのに、なぜかすごく安心できて、さっきまで血が頭に上ってたのに急に冷静になっていった

一瞬目頭が熱くなったけどそこは無理矢理抑える




「…なァ、風榎」

「なんだ」

「俺たちと来い」

「旦那と?」

「あぁ、風榎なら大歓迎だ。闘わなくていい、ただ俺の隣にいろ」

「、たしかに私は闘うのが嫌いだ」

「知ってる」

「けど護りたいものがいまはある。そのためになら私は闘うよ、何度でも。それに護られるのはもっと嫌いなんでな」

「…は、風榎らしいじゃねーか」

「それに姐さんを、頭を、護るって決めたんだ」

「じゃあそれを失ったらお前は俺の隣に来るのか?」

「その時は、きっと、」




 ドカァァァアアン




「!!」

「誰かがバカやったみてーだな」

「姐、さん…!!!!っどけ!!!!!」

「おっ、」





さっきまで冷えてた頭がまた急激に熱を持った

無意識に思いっきり力をいれて旦那を押す

旦那が後ろに軽く吹っ飛んでたけどどうでもいい

この本閣では建物を壊すこと、鳳仙の旦那の機嫌を悪くなるから爆弾類の使用はほとんど禁止されてる

いま聞こえたのは爆発音

反対にいえば爆発を使うのは相手、敵だけだ

姐さんが怪我を負った可能性が高い

さっき聞こえた爆発音の方にただ走る


長い廊下を曲がったとき、さっき見た鮮やかなオレンジとあの時と変わらない笑顔が目に入った





































兎が走ったそのさきは


(いまの私の瞳はきっとアイツらと変わらない)








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