あはれとも、

□八幕
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 神威SIDE





「これはこれは、珍しいご客人で。…春雨が第七師団団長、神威殿」





あれから本閣に向かった俺たち

お腹減ったからご飯をかき込みながら鳳仙の旦那の前に座る

正直美味しいとか不味いとかはどうでもいい

頭にあるのは風榎

やっぱり綺麗になってた。俺の予想通り

あぁいう服も似合うとは新発見だ

鳳仙の旦那の嫌みをのらりくらり交わしながら本題に持っていく





「日輪と一発………って言われてたけどどうでもいいや。…風榎がどうしてここにいる」

「可笑しなことを言う。お主が風榎を春雨から追い出したのであろう」

「そんなこと旦那には関係ないでしょう。風榎は第七師団団員で、それと同時に俺のもの。風榎の居場所は俺の隣。それ以外なんて必要ないです」

「もう風榎には居場所がある」

「なら俺が壊すだけです。守りたいものってやつができたんですかね?それを壊せばまた俺のところに戻ってくる」

「その時風榎はどう思うか、」

「さぁ?魔法使いじゃないんだから俺にも分かりませんね」





きっと風榎も同じ気持ちであってくれる

それは口には出さない

だって旦那はもう分かってるから

旦那は俺の気持ちを全部分かって訊いてる

俺の、我ながら狂いきった愛情も見透かしてるから、まるで風榎は俺を求めてないような言い方をわざとする


でも旦那は一つ分かってない

旦那がいる限り風榎は俺の手に渡らないって考えてる

だから易々と俺に風榎の存在を教えた

それは間違い

俺は風榎を連れ戻す

それこそどんな手を使っても





「…しかし年はとりたくないもんですね、あの夜王鳳仙ともあろうものが、全てを力で思うがままにしてきた男がたった1人の女すらどうにもならない。女は地獄、男は天国?いや違う。吉原は旦那…あなたがあなたのためだけに創った桃源郷[てんごく]。そんな欲にまみれたこの街を風榎は守りたいなんておかしな話だ」

「………黙れ」

「誰にも相手されない哀れなおじいさんがカワイイ人形たちを自分の元につなぎ止めておくための牢獄」

「聞こえぬのか神威」

「酒に酔う男は絵にもなりますが、女に酔う男は見れたもんじゃないですな、エロジジイ」





酒を注いでた俺を、次の瞬間旦那の扇ぎが襲う

俺は近くにいた女を身代わりに棚みたいなところに腰掛けた

あぁ、旦那は腕が落ちたな

旦那がとうとう立ち上がる

どうやら最初から俺たちの目的には気付いてたらしい

阿伏兎が旦那を必死に宥めようとするから笑えた


今考えると俺も十分酔ってるネ

……いや溺れてるの方が正しいかもしれない





「そいつは困るな」

「!!」

「そんなんじゃ俺のこの渇きはどうすればいい?普通の女や酒じゃダメなんだよ、俺はそんなものいらない。そんなもんじゃ俺の渇きは癒えやしないんですよ」





血だ

修羅が血

己と同等、それ以上の剛なる者の血をもって初めて俺の魂は潤う

これが夜兎



旦那と俺は違う

俺も風榎を求める、旦那みたいに

けれど旦那とは違う

俺は"繋ぎ止めたりなんかしない"

俺は"捕まえて離さない"


一緒だって言う奴はいるかもしれない

けど違う

繋ぎ止めるっていうのは行動範囲は決められてない

まだ自由がある


捕まえて離さないっていうのは俺だけを見させるってこと

俺以外見させない

俺以外の隣なんて許さない

俺以外に想いをよせるなんて、許さない





「…あんた達は勝てやしないよ」

「ぬかせェェエエ!!!!」





干からびてしまうほどに俺を照らしてくれ

























兎が太陽

(眩しいけれどただ求める)









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