あはれとも、

□肆幕
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それからまた数日


ほかの百華の姐さんたちに緊急召集が掛かったのに、私には別命令が入った

内容は、私があの日吉原に入った通気口の所を見張っておくこと

とうとうこの日が来たらしい





「吉原が騒がしいな・・・・・・」






初めて入ってきた奴じゃきっと分かんない

でもずっと見てきた奴なら簡単に分かると思う

吉原が騒がしい

そして珍しい





「風榎!」

「頭!!・・・・・・晴太と銀、さん・・・?」

「俺の麗しの天使ちゃん!!!間違えた、風榎ちゃん!!!!銀さんて呼んでくれたの夢じゃなかった!!」

「銀さん気持ち悪い!」

「!知り合いか?」

「あい、少し・・・」


「風榎姉、アル、か・・・?」


「え?」





晴太の後ろに視線を移すと、遊女の格好をした黒髪メガネの男の子と、昔見慣れた色とは少し違うピンクがかったオレンジ色の髪をした女の子



女の子の方は私を見て目を見開いてる

私も、不意打ちすぎて変な声が出た

最後に見た時はたぶん、私の腰くらいだったのに





「なっ、何でここにいるアルか!!!?風榎姉はバカ兄貴と・・・!!!」

「え、神楽・・・?・・・・・・まさか銀さんの仕事場の夜兎って、」

「神楽と知り合いか?」

「・・・・・・・・・知り合いならちょうどいい。話していたのが風榎だ、頼むぞ」

「頭?」

「風榎、おんしは此奴らと逃げろ」

「!!私は!!!」

「此処は危険じゃ。これは"吉原"の問題、おんしには関係のないこと」

「私はもう吉原の人間!!私だって…!!!!」

「さっさとここから逃げろ、次来たら本当に殺すぞ、侍」

「頭!!!!」





頭は私を見てくれなかった

なにか晴太たちと話してるけど、それすらも入ってこない

あの日伝えた言葉は嘘じゃなかった

私の命は、宝物を守るためならば燃え尽きてもいい

本望でしかないのに


私は必要ない?


・・・・・・私は、





「!!!」

「もう、手遅れらしいぜ」





殺気を感じた

思わずその方向を見れば、番傘を差した男



知ってる

このビリビリとした殺気は知ってる

あの傘の色にあの体格

神威と勝負して、神威の実力に惚れたとかでついてきた男だ

よく言い合いをする私と神威の仲裁に入ってきてくれた男

私とは父ほど離れた年齢で、よき同僚で、父のように、兄のように、悪友のように私と接してくれた優しい人

けれど、私の宝物に手を出すなら話は別だよ、阿伏兎


ここに来てから初めてここまで研ぎ澄まされた殺気を感じた

昔は慣れたはずなのに

どうやら久しぶりの実戦らしい

訓練はしてるけれども、相手が違う

私の身体は動いてくれるだろうか

夜兎の血が沸き立つのを感じる

これは、逃げられない





「ガキをよこせ・・・、そのガキをこちらによこせ」





刺すような殺気に、神楽が顔を真っ青にして震えているのが見えた

そんな神楽と違って、緊張と少しの楽しさが沸き立つ私は、もう染まってしまってたんだとこんな時だけど思い直す

私は夜兎なんだと、戦いからは逃れられないことを改めて実感


どうやらあちらは私の正体には気が付いてないらしい

好都合だ



次の瞬間、阿伏兎はこっちに突っ込んできた

それを見た頭がクナイを投げようとするけど、私が先に動く

腰に差したクナイを投げながら走り出して、番傘を振りかぶった

途中でまたクナイを投げておくのを忘れない

私が投げた大量のクナイを防ぐために番傘を開いてた阿伏兎の数歩前で踏み込む

そのまま番傘の向こうにあるであろう阿伏兎の顔に向けて私の番傘を思いっきり突き刺した





「・・・・・・危ねぇことするじゃないか、お嬢さん」

「外したでありんしたか」





阿伏兎の両肩に着地するような形で番傘を突き刺したけれど、手応えはなし

どうやら首を傾けて避けられたらしい

まあ当たってくれるとはあんまり思ってなかったけれど

パラパラと阿伏兎の番傘だったものが落ちる

すぐに番傘を抜きながら銃を撃ち放った

バク転の要領で阿伏兎と間合いをとりながら阿伏兎を盗み見る

なんにも変わってないみたいでなんだか安心した

いや、皺が増えてるから、また神威に苦労かけさせられてるんだろう


すぐに体勢を整えて、間合いを詰めた

体術とクナイと番傘と、時々ドスを交えながら息を着く暇すら与えずに攻めていく

あの時は体術だけしか出来なかったけれど、ここに来てから守るために強くなりたくていろんなものを貪欲に学んだつもりだ

致命傷にはならないけれど、確実に傷は増えてきてる

大きく横に薙ぎ払うように、横腹を狙った番傘は間一髪のところで、受け止められた

ぎりぎりと押し合いが続く





「嬢ちゃん、えらくべっぴんさんだな」

「はよ倒れなんし、お兄さん」

「もうちょい俺が若けりゃ、口説いたのによお。でもアンタ、百華だな」

「そうでありんす。けれども、・・・あそこにいた時より、あちきは楽しくて嬉しくて生きてる心地がしなんす」

「え、」

「あちきが今美しいと思いなんすなら、それは守るものができたからでござりんすよ。・・・・・・ねえ、阿伏兎?まさか、私を忘れちゃったの?」

「!その番傘にまさかお前さん、」



「銀さん!!!!風榎姉!!!!」



「!晴太!!!」





不意打ちで阿伏兎の力が抜けたところで、思いっきり力を入れて阿伏兎を横に吹っ飛ばす

そのまま阿伏兎と距離をとって晴太の声がした方に振り向く

そうすれば、名前は忘れたけど春雨の時の同僚が晴太の首元を掴んでた

私が見た事があるくらいだから第7師団の中ではわりと上にいるんだろう

この2人がいるってことは"アイツ"がいる

絶対いる





「放せっ!!」

「晴太ァア!!!」

「!!行くんじゃない、神楽!!!!」





晴太の方に駆け出した神楽

その瞬間今まで感じなかった殺気を強く感じた

阿伏兎なんて比じゃない

もっと重くて鋭くて気が狂いそうになるような

思わず止まるよう声をかけるけど、晴太に気を取られてる神楽には聞こえていないみたいだ

思わず私も駆け出す

晴太と神楽を直線で結んで、その直線の垂直線上にいる私

これならアイツが来る前に晴太のところに神楽が着く前に間に割り込めるかもしれない





「邪魔だ、どいてくれよ。・・・言ったはずだ、弱い奴に用はないって」





声が聞こえた

できれば一生聞きたくなかった声

番傘を構える

やっぱりそうだ

懐かしいピンク色の髪の毛

蒼すぎる瞳は神楽を射抜いてる

自慢の番傘を容赦なく振り下ろした神威

声に、振り向こうとした神楽だけど、あれじゃ防御は間に合わないだろう

なんとか私は神楽と神威の間に滑り込んで、その重すぎる攻撃を受け止める

あー、重たすぎない、本当に

番傘ギシギシいってるんだけど

ていうか神威の番傘はどんだけ丈夫なんだ

私のお気に入りの番傘ちゃんも耐えてくれ


足元にミシミシとひびが入っていく

後ろに目線をやれば、神楽が驚いたように目を見開いてる





「!!風榎、姉・・・・・・!」

「人の話は聞きなさい、神楽!!!今は引くよ!!」



「風榎、?」






名前を呼ばれて、身体が反応したのが自分でも分かった

相変わらず込める力は変わらないのに、さっきの冷たい声とは打って変わって不安げな声

思わず神楽にやっていた視線を上げる


綺麗な蒼が私を見ていた

その瞳は、この前の頭の瞳みたいに揺れてる

時が止まった気さえした

それくらいに、綺麗で、ゆらゆらと揺れていたから



いきなり足場が崩れた

神威の攻撃に番傘ちゃんの前に足場が耐えられなかったらしい

大きなひびが入っていって、私たちがいる部分のパイプが崩れていく

元々重点を下にしてたからか、私のバランスまで崩れたみたいで私も一緒に落ちる

うまく受け身をとれるかな



目の前の神威が急に手を伸ばした

その手は私にまっすぐ伸びたけど、私に触れることなく虚しく空を切る

私を呼ぶ声が聞こえた

































兎の再会

(空を切ったその手は)
(悔しげに握りしめられた)




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