あはれとも、

□参幕
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「そう驚くことでありんしたか?あちきのこの格好ですぐに分りんしょ」

「いや、久しぶりのタイプの可愛子ちゃんで信じられなかったっつーか、信じたくなかったっつーか、気づかないフリをしてたっつーか・・・」

「あちきにぞっとした?へんなお主さん」

「やっぱ反応可愛すぎない、この人?そんな口元に手当てて笑うの似合う人なんて銀さん見たことないんですけど」

「ほんに変わってはるお侍さんでありんすねえ」





あれから、とりあえず近くの茶屋に入った

晴太はいつもの店にお金を渡しに行ってる

いつもの女将さんにお茶と団子を2人分頼んで店先の椅子に座る

私の左隣には銀さんとやら

まぁ隣と言っても銀さんは椅子の1番端っこに座ってるんだけど

えらく怖がられてるらしい

まあ、百華だし、これが普通の反応か

高杉の旦那と晴太が変わってるだけだ





「あちきが粛清するのは、ここ吉原での掟を破った頓痴気のみ。そう怖がらなんし」

「見た目はすんげー可愛いのに、やっぱり百華で副頭なんだよな・・・?」

「よくいうものでありんすよ」

「胸もデカいのに?」

「・・・・・・好かねえことをおっせえすね。粛清しなんすか?」

「ちょっ!!今掟を破った奴だけって言ったよね??!銀さん破ってないよね??!!」

「あちきが掟でござりんす」

「吉原どうなってんだァァァァアア!!!!すいまっせん!!!だから番傘を・・・え?番傘?」





私が座りながら、横に立てかけていた番傘を持てば、顔を青くするお侍さん

けれど次の瞬間不思議そうな顔で私、というか番傘を見てきた

そんなに珍しいものでもないだろうに





「なんざんす?」

「・・・・・・もしかしてお嬢さん、夜兎、ってことはないよな・・・?ははっ、はは・・・」

「ほう、夜兎を知ってなんしたか。ご名答、あちきは天人、夜兎でありんすよ」

「番傘でもしやと思ったんだ。同じ夜兎でもこうも違うもんかねえ」

「おてきの知り合いにでも夜兎が?」

「俺の仕事仲間?部下?居候?にもいんだよ」

「それはえらくたくさんの肩書きがありんすねえ」

「あぁ。まあ、うちのはとんだじゃじゃ馬だけどな。風榎さんみたくべっぴんさんでもねえし」

「お主さんは口がほんに上手いでござりんす」

「風榎さんにだけだからね?こんなこと言うの?ほんっと、うちの夜兎ももーちっと風榎さんを見習えっつーの!毎日アルアルうっせえよ!ったく・・・」

「アルアル?」

「あと地味メガネと俺よりでかい犬もいんぞ」

「えらく騒がしそうな職場ね」





さて、本題だ

私たちの間にあった椅子のスペースをずいと詰めて、お侍さんの耳元に顔を寄せる

お侍さんは情けない変な声を出して、すぐに耳まで真っ赤にした

初心すぎやしないかな

なんだか小声で、いい匂いがするなんて言ってるけど、聞こえてるし

たぶん姐さんからもらったお香の匂いで、なんだか私まで嬉しくなる





「晴太に真っ当な暮らしをさせてくれてありがとう。今の晴太はとってもきらきらしてて、すごく今が楽しいみたい。本当にありがとうね」

「!お前、その話し方・・・」

「どうしても、百華の副頭の時はスイッチを入れなくちゃならないから廓言葉が癖になっちゃって。これは副頭としての私じゃなくてただの風榎からのお礼」

「・・・アイツにもこんだけ想ってくれる相手がいたんだな、安心したぜ」

「どうぞこれからもよろしくしてやってね」





こくりと頷くのを見てから離れる

良かった、晴太はいい人に拾われたみたいだ

離れ間際にわざと音を立てて頬に接吻する

お礼になるかは分からないし、布越しだけれど

それから、番傘を持って椅子から立ち上がる

お侍さんを見れば、口をパクパクさせて顔を真っ赤にしてた

まさか、どのつく貞かしらと思うくらいにこの人は初心らしい





「・・・では、おさればえ、銀さん。ここへはもう来なんすなよ 。晴太にもよしなにお伝えなんし」









私はお金を置いて足早に店を出た

























兎の息抜き

(おまた・・・ってどうしたんだよ銀さん!?)
(待って銀さん超かっこ悪いすっげえドキドキしたんだけど)






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