あはれとも、

□弐幕
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「・・・・・・失礼しなんす」

『あぁ、入れ』





私は普段"百華"として働いてる

通常"百華"の者は客をとらない

けれど、例外もあるらしい








数ヶ月前姐さんたちに絡んでた輩を殺った時だ

薄暗い路地裏に噎せ返る血の匂い

私の居場所はここで、この呪縛からは逃れられないと何度も自覚させられる

私は結局闘うことでしか居場所を見い出せない


そこに現れたのが高杉の旦那

生臭いそこに気にせずこちらに下駄の音を響かせながら私に寄ってきた





『お前、百華の奴か』

『・・・そうでありんすが、』

『なんだ、見える顔は上玉なのに布の下には傷でもついてんのか?』

『教える義理はないでありんす』

『それともほかの雌みてェに落ちぶれたくねェか?』

『!!姐さんたちを愚弄するな!!!!!』

『・・・ほう、いい眼すんじゃねェか、そっちが素か。気に入った、お前名前は』

『・・・・・・おさればえ。お帰りなんし』

『調べりゃあ、分かるんだぜ?そこら辺の女をちょいと脅せば、なァ?』

『!!お主さん・・・!』

『百華が"なにもしてない"客に手を出してもいいのか?・・・もっかいだけ聞くぞ、名前は?』

『・・・・・・ッあちきは風榎でござりんす!!』

『風榎、か。いい名前じゃねェか』







今思い出しても反吐が出る


それから旦那・・・所謂高杉晋助は2週間に1度くらいは私を買うようになる

けれど買うと言っても、抱くんじゃなくてただ話したり酒を注いだりするだけ

3度目の馴染みが終わってもだ

これでも百華の副頭を名乗ってるんだから決して安くないはずなのに

私を買う時点で頭がおかしいと思ったが、やっぱり外れてなかった


最初に買われた時は警戒しかしていないし私が買われるなんて思ってもみなかったから断ろうとしたけれど、何やら鳳仙の旦那にとっても上客らしく断ることはできなかった

相手さんは私を指名して、前払いとして莫大なお金を私につぎ込んだらしい

最悪殺せばいいかと了承して当日

初会で旦那は、本当に昔馴染みのように世間話しかしてこなかった

あの出会いなんてなかったみたいだ

肩透かしを食らったみたいだったのを覚えてる

その次の裏も同じ

本当に純粋に私に興味がある風にしか見えなかった

まあ、今でもなんで私を買うかなんて分からないけれど

今じゃ私のおゆかり様だ

旦那は私以外買っていないらしいし、本当に分からない人だ


私にとってよく分からない時間だけれど、頭は旦那が私を買うとなんだか嬉しそうにしてる

最初は私と同じようにすごく警戒していたし、反対しかしてなかったけれど、何もせずに終わることを知ってから変わった

頭は私が殺しに関わらない時間があってほしいらしい

もう私の手は染まりきっているのに、頭は私にまだ夢を見ている節がある


服装は百華の時と同じで、動きやすくスリッドが入った短い黒い着物に、血で汚れたから姐さんから貰った違う鮮やかな着物を羽織り直した

レザーの手袋とニーハイ丈の足袋の皺を伸ばすように引っ張る

ほかの姐さん方と同じように底が厚い黒塗りの高下駄

まあ、姐さん達とは違って私は足袋を履くのだけれど

羽織の着物に合わせて、姐さん達から頂いた鼈甲の簪をさして完成だ

念の為に中の着物にも血飛沫が付いていないかだけ禿に見てもらった


百華の私だけれど、一応禿がいる

ここでの生活に慣れていない時は頭と一緒に色々なことを教えてくれたし、本当に可愛い妹みたいだ

百華の私の禿なんかで申し訳ない

禿の頭を数度撫ぜてから、いつもの上客用の大きな部屋へ向かう

部屋に入る前に一声かけてから襖を開けた

今日は1人じゃないらしい






「百華副頭、風榎でありんす。よしなに」

「来るのがおせえじゃねえか。久しぶりだな」

「またあちきなんかを買って、つくづく金茶金十郎でありんすね、お主さん」

「ククッ、気に入ったって言ったろ?」

「ほんに変なお主さん。はて、そこのかのかたはどなたでありんすか」

「あぁ、そうだったな」





私が窓の縁に座っているサングラスの男に視線を移せば旦那がまた喉で押し殺したみたいに笑った

旦那が顎で促すと、 サングラスの男は自分のことと分かったみたいで、立ち上がってこっちに歩いてくる

なんだか風変わりな着物だ





「拙者は河上万斉でござる」

「あぁ、よく高杉の旦那の話に出てくる河上様でござりんしたか。先程言いなんした通り、あちきは吉原自警団"百華"の副頭を務めなんしている風榎でありんす」

「よろしくでござる。お主のビートは一見穏やかでござるが、なにかを隠していそうでござるな。ぜひその隠したビート、聞いてみたいでござる。して、何故百華の者が晋助に買われているのだ?」

「さあ?あちきも申しんしたんだけれど、旦那の考えていることはよう分かりんせん。あちきが教えてほしいでありんす」

「晋助は変わっているでござるからな。まあ、晋助がお主を買いたいと思うのも無理はない美貌でござる」

「ふふ、嬉しいことをおっせえす」

「おら風榎、万斉ばっか猫かぶって相手してねえで酒注げ。こっちは高い金払ってんだからよ」

「てもせわしのうざんす。あちきが払えと申しんしたわけでもござりんせん、払わなければいいだけでありんす」

「早くしやがれ」

「無視でありんすか。ほんに自分勝手なお主さん」





相変わらず可笑しい人だ









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