愛,哀,あい
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放課後、私は志帆ちゃんに連れられて会計委員の部屋の前にいた
今から逢うファンクラブの会長さんは、会計委員の委員長さんらしい
なんでかは分からないけどガチガチに緊張してる私に志帆ちゃんがリラックスするように言ってくれるんだけど、ファンクラブ=怖いイメージしかない私にはそんなの無理に決まってる
山吹と四天の会長さんも、最後は優しくしてくれたりしたけど最初はすごく怖かったし
結局心から好きにはなれなかった
そんなことを考えてるうちに志帆ちゃんが扉をノックしてて、本格的に冷や汗まででてくる
どんだけ緊張してるんだ、私は
志帆ちゃんが扉を開けた
中には眼鏡をかけた女の子
肩くらいに切り揃えられた黒い髪、ソファーに座る姿勢とか、とりあえず全部が綺麗
志帆ちゃんが会長さんの前のソファーに座るよう促される
「急にごめんなさいね、市川さん。私は会計委員長で、ファンクラブの会長を勤めさせてもらってる興染七海よ、よろしくね」
「あっ、私は市川想香です!!よろしくお願いします!」
「同じ3年なんだから敬語なんていらないわ」
「うっうん!」
「市川さん、いくつか質問させてもらってもいいかしら?私はあなたのことを知らなさすぎるから」
「もちろんいいっ、よ!」
「じゃあいくわね。ここに転校してくるまではどの中学にいたの?」
「大阪の四天宝寺だよ」
「何部だった?」
「テニス部のマネージャーかな」
「ここに転校してきたのは親の転勤かなにか?」
「親がアメリカに仕事で行くらしくて、私は親戚の家に預けられたから」
「テニス部のマネージャーにはなんでなったの?」
「自分はあんまりテニスが上手くないから見てるのはホントに好きだからしたいなって!それに幼馴染みに誘われたしね」
「四天でのテストの平均とどのくらい差があったのかしら?」
「え、………あ、平均より、高くても5点くらいであんまり差はなかったかな」
「ご両親のことは好き?」
「正直反抗期だったからあんまり好きじゃなかったね。逢えなくなってちょっと嬉しいかも」
「好きな食べ物は?」
「チョコアイス!」
「そう、」
そう言って言葉を切った興染さん
途中からなんだか違う方向にいったからビックリしたけど
そしたら、私の隣に座ってた志帆ちゃんが楽しそうに言った
「ね、七海、どうだった?」
「……報告書と違うところは全くないわね。テニス部のマネをやってた理由も嘘をついてるようには見えないし、もちろん合格だな!!」
「、え?」
「あー、やっぱ眼鏡嫌い。堅苦しいしゃべり方も座り方も、アタシ女優狙えるんじゃね、これ?」
「絶対いけるね」
「だろ!?」
急に立ち上がったと思ったらさっきとは違って男勝りの口調に変わった興染さん
それからダルそうに眼鏡を取って、足を開いて深々とソファーに腰かけた
浮かべる笑みは歯を少し見せて、ものすごく楽しそう
私の頭は全くついていけてない
それに気付いてくれたのか、私の方を向いてまた興染さんは笑った
「騙すようなことしてごめんな、想香ちゃん。前の学校でマネやってたみたいだからミーハーかなって思って試させてもらったんだ。アタシこっちが素なわけ。これでも会長やらしてもらってるならこんなんだとなめられちゃうんだよね、だからいつもっていうかほとんどの人の前じゃあーやって演じてんの」
「なんで私をミーハーじゃないって思ったの?」
「だいたいのミーハーって、アタシたちがファンクラブだって分かると媚び売ってくるか毛嫌いすんのよ。でも想香ちゃんはそんな素振りないし報告書通り答えてくれたし全然合格。それにアタシ自身が話してみたかったし」
「騙すようなことしてごめん、想香」
「それで信じてもらえたんなら私はいいよ!でも興染さんはなんで私に素を見せてくれたの?ほとんどの人の前ではあれなんでしょ?」
「七海でいいから!アタシが話して気に入ったから。さすが鳳くんの従兄弟、なんか雰囲気似てるわ」
「そうかな?」
「うん、そう!アタシは志帆共々、想香ちゃんともっと仲良くなりたいって思った、だからいつでもここ来なよ!んで鳳くんの小さい頃の話とか聞かせてくれよな!」
「っうん!」
それから七海ちゃんと志帆ちゃんでいろんなこと話した
長太郎くんの昔のこととかこの学校についてだとか
こんないい子がファンクラブの会長さんだなんて、ここの学校のテニス部は幸せだなぁ、なんて考える
…あ、決してほかのファンクラブの会長さんが最悪なんて言ってる訳じゃないからね?
気が付けばほんのり空が黒くなってる頃になってて解散することにした
送っていくって言われたけど家が正反対だったから断って2人とはバイバイして別れる
マナーモードを解くためにケータイをカバンから取り出して画面見た瞬間思わずケータイを落としそうになった
「着信履歴、258件………?」
相手は全部四天のテニス部とかクラスの皆とか
1番上にあった友達にまず電話を掛けようとしたときちょうど電話がきた
テニス部の藤縞くん
私は急いで通話ボタンを押した
「ふじし、」
『想香!!良かった、無事やねんな!!?』
「無事ってどういう意味、藤縞くん、?」
『…よう聞けや、想香。理由は言わへん、聞かんといてくれ。でもお願いやからこれだけは分かっといて、俺らは想香を嫌ったわけやない、ほんまに好きやから。っだからこそやから』
「え、」
『これから、すぐに四天全員のメールとか電話とか繋がってるもん全部拒否するんや。そんでメアドと電話番号変え。俺らには絶対教えたあかん、信じとるやつにしか教えたあかん。関西に住んでるやつらには絶対教えたりとかしたあかんで。…っほんで、今後一切こっちには帰ってきいな。俺らのことは忘れるんや』
「なんで?わけ分かんないよ!」
『ほんまに想香が四天来てくれて、心から俺らは嬉しかった。ッアイツらもそれだけやねん』
「藤縞くん!!!」
『俺が言ったこと今からすぐ絶対せなあかんで?それやなかったらもう一生口きいたらへんからな!』
「やだよ、なんで!?」
『ほな、気いつけるんやで、想香』
「!まっ、」
ツー ツー ツー
「わけ、分かんないよ……………!」
(震える手でボタンを押していった)