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□お前の為なら
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『お前の為なら死んでもいい』
俺に死ぬなと言ったアイツは、そう言ってた。
『好きだっ!お前の為なら死んでもいいくらい、っお前が!』
昼間に見た、ナツの必死な告白。あんなに真剣なナツは俺は見たことがない。
相手は、チームメイトである、綺麗な金髪の少女。
彼女は、顔を赤らめて暫し戸惑った後、笑って大きく頷いた。
それから先は見ていない。いや、見たくなかった。
「……バカだろ」
それは、ナツの馬鹿正直過ぎる告白に対してか、それを見て、自宅のベッドで枕を濡らす女々しい自分への自虐か。
ナツが、彼女に好意を抱いているのは知っていた。
男であるナツが、同じ男の俺と、女のあいつ。どちらを選ぶかくらい、子供でも分かる。
それでも、ほんの少しの"可能性"にかけてしまった。
『なあなあ!買い物行こうぜ!お前が好きそうな店見つけたんだ!』
『あ?なんだよグレイ。仕事?あー悪ぃ、俺、今日用事あんだ。ジュビアでも誘ったらどうだ?』
あいつに向けたあの笑顔は、俺には向けられない。
「っくそ……」
何故、あんなに嫌いだった筈のアイツを、どうしてこんなにも好きになってしまったのかは分からない。
でも、夜が更けた今も止まらない涙は、この気持ちが本物だと告げている。
「っ……う…ぁ…」
既に涙でぐしゃぐしゃになっている枕を顔に当て、声を上げて泣いた。
もう、涙が出なくなるまで泣いてやろうと思った。
でも、いくら泣いても涙は止まらなくて、いくら叫んでも、胸の痛みは紛れなくて。
「好きっ…!…好きだっつのっ…!…クソ炎ッ……!…」
容量を超えた想いが暴走して、溢れた。
胸がいたい、苦しい。
こんな思いをするなら好きにならなければ良かった。
どうして好きになってしまったのだろう。
どうして実らないと分かっている想いを抱いてしまったのだろう
分からない
でも、俺が早くこの想いを切り捨てる事が、アイツ等のため。
━━━引き摺っていても、仕方ない。
泣いて、泣いて、泣き疲れて。
気が付けば気持ちに整理がついていた。
俺にとってナツは、気に入らないが、良きライバルであり、仲間だ。
この思いは一時の気の迷いであって、
きっと、月日が笑い話に変えてくれる
明日、
いつものように、ギルドへ行って、
さぞ幸せであろう二人を、
からかって、
笑って、
それで………。
――目一杯祝福してやるんだ。
ーENDー
→あとがき