BOOK 薄桜鬼/K

□贈り物
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今日は特にやることもなく、適当にブラブラと街をを歩いていたら、向かいから斎藤さんが歩いて来た。

斎藤さんとは特に親しい間柄ではないけれど、何回かわたしが働いているお店に足を運んでもらっていた
商売の相手をさせてもらっているうちに、わたしは斎藤さんに惹かれていった…
要は、斎藤さんはわたしの片想いの相手だった。


「おはようございます。」

「あぁ、おはよう」


すれ違いざまに挨拶を交わしてそれ以上話すこともなしにそのまま通り過ぎようとした時、パッと斎藤さんに手を掴まれた

「すまない、ちょっといいか?」

「はい…?」

どうしたのかと驚いたわたしを気にすることもなく斎藤さんは続けた

「なつき…だったか?買い物に付き合って欲しいのだが……」
   
そうしてようやく状況を理解したわたしはゆっくりと頷いた。

「もちろんですよ。それよりも、わたしの名前、 知ってたのですか?」

特に親しいわけでもない売り子と客という関係なのにも関わらず、斎藤さんがわたしのことを知っているのが嬉しかった


「あぁ…まぁ、な………。で、買い物は付き合ってくれるのか?」

「はい。私で良いならですが…むしろ、私などで良いのですか?」

明らかに今、偶然会ったわたしなんかを誘う理由が分からなかった。
ただの売り子と客の関係から少しでも距離が縮まるならば、とわたしがお誘い断る理由はないんだけど…


「あ、あぁ…。女の好みは俺には分からないからな」

その言葉でわたしはピンと来た



「千鶴ちゃんに贈り物とかですか?仲いいですし…」

自分で言っておきながら、少し胸が痛んだ
笑った顔も多分少し作り笑いっぽくなってしまったと思う


そして、心のどこかで否定されることを願った

けれど、


「…………まぁ、そんなところだ」

斎藤さんは少し間を空けてそう答えた。


「そうですか…」

とりあえず笑ってそう返し、ゆっくりと2人で歩き出し、目当てのお店を探して行く

歩いている間
特に会話はなかったが、とても居心地が良かった


また、いつか…二人で出かけられたら…

そんなことを思った。



「どうして、急に千鶴ちゃんに贈り物を?」

ふとした疑問を休憩がてらに入った甘味処で斎藤さんに聞いてみた



「今日は雪村の誕生日らしいからな。」

そっか………今日は千鶴ちゃんの誕生日なんだ…
そしたら適当なものじゃあげられないな、と少し気合を入れてプレゼント探しを再開した






しばらくして、あまり普段は使えないものの、とても千鶴ちゃんに似合う簪があったからそれを買うことにした

「いいのが買えましたね。すごく千鶴ちゃんに似合ってると思いますよ」

「あぁ、そうだな。助かった、なつき。」

「いえ…、そんな…」


そんな他愛のない会話をしながら別れ道へと向かった

斎藤さんはわたしの家まで送ると言ってくれたが、まだ明るいからとわたしは断った

早く千鶴ちゃんにプレゼントを渡してあげて、と。


今のわたしにはそんな風に強がることしか出来なかった







しばらく歩いて別れ道に着いたとこで斎藤さんが持っていた荷物から一つ、手鏡をわたしに差し出した


「これは?」

「なつきに……。俺が選んだものだからあれかもしれないが……今日のお礼だと思って受け取ってくれ。」


渡された手鏡は桜をモチーフにした模様で、とても可愛らしかった

「ありがとうございます…すごく可愛いですね。大切にします」

そう言ってわたしは受け取った手鏡を胸に抱いた



今のわたしには斎藤さんが選んでくれたことと斎藤さんからもらったことで幸せだった。



「なつき……その、だな。そろそろ伝えなくてはと思っていたのだが…いざとなると言葉にできなくてな………。」

「なんですか?」


少しの間わたしのことを見ていた斎藤さんだったが、少し躊躇いがちに話し出した




「俺はなつきが、その…好きだ」

え………?
あり得ないと思っていた言葉がわたしに向けられて頭の中が混乱する


けれど、斎藤さんの少し照れたような顔を見てなんか嬉しくなって、わたしは何も言わずに斎藤さんの腕の中へと飛び込んだ












 

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