スザルルSS

□きみ不足が深刻です
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※現パロ、ルル←スザ+独自設定シンステ











想いだけはひどく美しいのに、僕が思い描く君との日々はとても浅ましい

この透明な想いのような日々がおくれないのなら、君を傷つけてしまうなら

僕は心を閉じることにする




夜も更(ふ)け、白銀の盆のような満月が濃紺(のうこん)の空に輝いている


終電を逃したスザクは、大学の同期でもあるステラのアパートに泊まらせてもらっていた


スザクの哀願に、ステラは呆れと皮肉っぽい感心を織り交ぜた目になったが、結局は渋々といった感じで了承してくれた


「…ごめんね、ステラ」


部屋に上がらせてもらったスザクは目の前の光景に目を見開き、気まずそうに俯いた


「別に。仕方ないでしょ」


パジャマ姿のステラはとりとめもなく、目をそらさずスザクの視線を受け止める


部屋の奥の脇にあるベッドにはステラの恋人、シンが半裸で横たわっていた


「疲れて寝てるから静かにしてて」


「わかった」


月明かりの寝室、シンの寝息が規則正しく続いている


彼の寝顔を愛おしげに見つめるステラの横顔は、どこまでも優しい


慈母のような美しさすら感じさせる


「はい」


ガラスのテーブルに置かれたのは戸棚にあった茶菓子と、特製のハーブティー


ステラが用意してくれたらしい


甘く、豊潤な匂いが部屋中いっぱいに広がる


「いい香り。ありがとう」


酒だけを呷(あお)り、胃と肝臓に多大な負担をかけたが、ハーブの効能が効いてきたのか、少しずつ吐き気と痛みが和(やわ)らいできた


なんて気が楽なのだろう


好きな人の前で非日常を装うのも愉(たの)しいけれど、この気安さ、親密差はやはり友人同士ならではの贅沢だ


「何かあったの?」


「え?」


黙りこくり、覇気のない表情を察し、ステラは心配そうにスザクの目を覗き込む


「お酒くさい」


強い酒の匂いが鼻をつき、ステラが顔を顰(しかめ)る


「あっ…ちょっと、やけ酒しちゃって」


隠そうとしていた酔いをこうもあっさり見抜かれ、苦笑する


スザクは珍しくひどく悪酔いをしていた


そうさせるだけの嘆かわしい何かがあったのだろうか


ただ、毎日、味気ない単調な生活を送っていれば、時に嫌になるほどの憂(う)さも溜まるし、不平も積もるというものだ


そんな積もり積もった心の澱(おり)を酒で散らそうとしたわけだが、いざ試(こころ)みてみれば結果は無残そのもので、余計に鬱屈(うっくつ)が増しただけだった


どこまでも屈折した気分に耐えられず、スザクは口を開いた


安定、安寧という真綿に包まれた、小さなちいさな棘(とげ)


悩みの一部はまさに、その一言で言い尽くされてしまう類のものだと思う


彼は一番始末に負えない、悩み事を抱えていた




あの夜に抱いた心情が、どういうものかは、自分でもはっきりと自覚している


何度かルルーシュの肩がぶつかった時、唐突に、ああ、まずい、と思った


体の芯が、じわりと熱をもってひくつき始めている


自分でも手の届かない最奥で、結び目がひとつ、またひとつと、とめどなくほどけていくのがわかる


火がついたが最後、鎮めるにはただ一つの方法しかない、あの悪癖


もっとも、ルルーシュ本人を前にしてそのような感情というか情念はおくびにも出さなかった


一人でいる時に、それこそ発作のように枕を彼に見立てては力一杯抱きしめたりはしたが


恋の病は、時に脳に深刻な影響を及ぼすらしい


時にそのような暗い感情に苛(さいな)まれながらも、ルルーシュと同じ時間を共有する日々は、ある種の至福をスザクにもたらしてくれた


気づくとステラが何か言いたげな様子で、スザクの顔を見ていた


「……つまり、ルルーシュに欲情しちゃって、ヤりたくてたまらないってわけ?」


彼女のストレートな問いかけに、思わず噎(む)せたスザクは危うくカップの中身を零しそうになった


しばらく沈黙が続いたあと、スザクは囁くように、ふり絞るように、ようやく口に出す


「簡単にまとめると、そういうことに、なるのかな…」


視界の隅で、無意識に逃げ場を確認しながら、それでもスザクは、断崖から宙に足を踏み出すような思いで、言葉を押し出した


情けないほど小さな声になる


「呆れ果てるのもわかるよ。人並みの自覚症状もあるし。でも……」


ルルーシュの優しさが、スザクの心を温かく突き刺した


そして、失えないものほど鮮明に焼きついてしまう


「好きだ。どうしようもないくらい好きなんだ」


酔っ払い特有の箍(たが)が外れかけた精神状態は影を潜め、陰鬱な気分を引きずっているのか小さく息を吐(つ)く


「で、夜な夜な隠れて自己処理をしてるのね」


「うん、そうしなきゃおかしくなってしまう」


短い返答でも、自嘲の響きが表面に出ている


ふいに胸の中に酢を流し込まれたような心地がして、スザクは、ぎゅっと眉根を寄せた


何をもってしても満たされないこの飢えを、これから先どのくらい躯の中に飼っていかなくてはならないのかと思うと、うんざりする


年をとれば薄れてゆくものであるならば、一刻も早く年老いてしまいたい


この飢えから解き放たれたなら、いったいどんなに楽になれることか


無意識のうちに、自分の奥底に蠢(うごめ)く魔物について誰かに聞いてもらえるきっかけを待っていただけなのかもしれない


「ルルーシュ……」


スザクは彼の名前を呟いたきりひどく複雑な表情になる


何か強い衝動に堪(た)えているかのように瞳を潤ませ、唇を噛み締めていた


その後もステラは黙って、微(かす)かにしろ哀愁の色彩を帯びたスザクの声に耳を傾ける




――誰かが啜(すす)り泣く声に、ぎくっと目を開ける


ひどく朦朧としている


窓の外を見れば空が白み始めている


飛び起きて時計を覗きこみ、ほっとして、再びベッドに倒れこんだ


残業が終わったあとステラのアパートに寄り、愚痴を聞いてもらったのだ


意地でも仕事に穴をあけなかった代わりに、胃に穴があいた


五分後、絶対に眠りこんだりしないつもりでごろりと横になった


……そのあとの記憶が、型で抜いたように失われている


目が覚めてよかった


思慮深いステラのことだ


無理矢理起こすのも気が引けると思って、そのまま寝かせてくれたのだろう


寝返りを打って俯(うつぶ)せになり、清潔なリネンの匂いを肺の奥深くに吸いこみながら、シンは目を閉じようとした


「ステラぁぁ……ぼく、どうしたら」


声に反応して見てみれば、見知らぬ青年がテーブルに突っ伏して啜り泣いていた


理由を問う必要はない


鳩が豆鉄砲を食らった顔とはこれを参照されたし、と辞書に紹介されるほどに典型的な顔をしていたに違いない


「来客よ、枢木スザク。私と同期なの」


ひたすら困惑するシンが尋(たず)ねる前にステラが告げた


混乱しかけた頭を落ち着かせようと、ステラの許可を得てカップに残っていたお茶を飲み干す




「普通、ここまで悩むもんなのか?」


色恋沙汰に悩むスザクに、呆れと感心を微妙に入り混じらせながら言うと、彼女は優しく笑った


「そういう性格なのよ、スザクは」


ステラはさりげなさを装い視線をスザクに向けた


「ま、まあ……チャンスが無いわけじゃないんだから。頑張って下さいよ。枢木さん」


単なる詭弁(きべん)に思われるかもしれないが、シンの偽(いつわ)ざる本心から発した言葉である


シンの助言に心打たれたスザクが、彼の胸に飛び込んできた


「シン君ッ!」


「うわあぁぁあぁ!?」


悲嘆に酔って自らを慰めるような時間の浪費が馬鹿らしく思えたのか


安堵と喜びを大仰(おおぎょう)に表現する


不意に、暗く濁(にご)った視界の先に光がちらついたような錯覚に陥る


時間がここまで極端に伸び縮みするものとは思いもよらなかった









きみ不足が深刻です



(好きすぎるんですがこれって病気ですか?)









お題拝借、確かに恋だった様


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