スザルルSS

□夢の続きをくれたのは、きみだけだったよ
1ページ/1ページ


※シンステパロスザ♀ルル













眠りにつく瞬間にふと思い出す

今日話したこと、笑顔、きみの声

そして静かに目を閉じる

泣かないようにきつく、きつく







昨日――スザクが医務室を訪れた時見たのは、拘束具でベッドに縛りつけられ苦しげに顔を歪めたルルーシュの姿



鎮静剤を注射され、今は落ち着きを取り戻し眠りについている



「生体CPU、モビルスーツの…部品」



スザクはタリアが口にした単語を繰り返した



その言葉は舌の上に苦く響く



「いや……ナナリー…」



ルルーシュが眠ったまま小さく呟いた



シンはその枕元に寄り、じっと立ち尽くす



その手には小さなガラスビンが握られていた



彼はそれを目の前に翳(かざ)す



中でチリンと音を立て、花びらのようなピンクの貝殻が揺れる



「なにも……覚えてないだなんて」



スザクはなおも信じられない思いで呟く



多少の警戒はしていたが自分を信じ、高貴な目で自分を見上げた



この貝殻を渡して柔らかく微笑んだ



ジープに乗って遠ざかっていくスザクを寂しげに見送った



「君は……連合の強化人間で」



ガイアに乗って戦っていたことを知らずに、これまでずっと戦ってきた



敵意を剥き出しに攻撃することしか覚えずに



だが、その間もずっとコックピットにはこの少女がいたのだ



「あんなところに……いた子だなんて……」



あの惨状が瞼に蘇る



大人達と殺しあって死んでいた子供



ビンに漬(つ)けられていた子供――



あのうちの一人が彼女だったかもしれないのだ



スザクはたまらなくなって震える手を伸ばし、静かに眠る少女の髪に触れた



昨日はルルーシュが連合の強化人間(エクステンデッド)という事実に、ひたすら衝撃を受けるばかりだったが、今は彼女を取り巻くあらゆる不幸が、スザクをさらに打ちのめしていた



確かに彼女はスザクの同胞を何人も殺した



だが、それがルルーシュの罪だろうか?



兵器のパーツとしてしか見なされず、ひたすらに殺すことだけ教え込まれ、逃れることも出来ずに見えない敵に怯える少女を、一体誰が責められるのだろう?



床に座り込み、自分のもののような痛みを感じていたスザクの耳に、その時微かな声が届いた



「……ん」



スザクはハッと目を開けベッドの上を見た



いつの間にか目覚めていたルルーシュの、紫の瞳が彼が握りしめていたガラスビンに留(と)まっている



その顔に、射(さ)しそめる曙光(しょこう)のような笑みが浮かぶ



スザクは中がよく見えるようにビンを差し上げ、そっと話しかけた



「覚えてる?ルルーシュ」



「……?」



「これ、ルルーシュがくれたんだよ」



その記憶も彼女の中には残っていないのだという



でも、彼女は眠りに落ちる前とまるで違う、柔らかな表情でビンの中の貝殻を見つめていた



「私……が?」



小さな声で問いかけ、ルルーシュは不思議そうにスザクの顔を見上げる



スザクは泣きたいような気分になりながらも、出来るだけ優しく微笑みかけた



「そうだよ。海で……会った時」



「海で…会った…」



ルルーシュは大きな目を宙にさまよわせる



その目が再びピンクの貝殻に戻り、そして、次にスザクの顔を映す



やがて、彼女は別れた時そのままのしっかりした口調で囁いた



「――スザク……?」



スザクは息を飲み、身を乗り出した



「ルルーシュ……!」



自分の聞き間違いかと思った



だがルルーシュはおずおずと笑みを浮かべ、嬉しそうに訊(き)く



「会いに……来てくれたんだよ…な?」



スザクは信じがたい思いで勢いよく頷(うなず)いた



「うん!ルルーシュ。僕に会った時のこと、覚えてる?」



ベットに横たわったまま顔の方だけスザクに向けて、こっくりと頷く



「ああ……覚えてる」



必ず会いに行く――



別れた時のスザクの言葉



失われたと思った二人の思い出



でもルルーシュは覚えていてくれた



待っていてくれた



会いに行くというスザクの言葉を信じて



その記憶を壊そうとした誰かの作為すら越えて



再び巡り逢えた奇跡に胸が熱くなる



取り戻した大切なものを確かめるように、スザクはそっと尋ねた



「ルルーシュ、俺、わかる……?」



スザクの気持ちを思いやるように、再度ゆっくりと頷く



「スザク……」



自分を呼ぶ細い声を聞き、スザクは泣き出したいような気分で、優しく彼女の頬に触れる



静かな喜びが全身を充(み)たしていく



ルルーシュは心から安らいだ笑顔になり、目を細めた







夢の続きをくれたのは、きみだけだったよ



(あと少しだけ、もう少しだけ、)















お題拝借、ニルバーナ・闇に溶けた黒猫様


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ